Future Signs 未来の兆し100 特別対談 未来の食 誰もが、自由にカジュアルに新しい価値を生み出せる社会へ

フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。

CCCマーケティング株式会社

Future Sessions

2016年から、ビッグデータを活用して地域課題の解決をめざす「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」第三弾の「五島の魚プロジェクト」を実施。地域の生産者と事業者、消費者、流通業者など異なる利害を持つステークホルダーの共創を生み出し、未利用魚を活用した商品開発へつなげた。本プロジェクトは2021年には共創型プラットフォーム「Tカードみんなのエシカルフードラボ」へと発展。多様な背景を持つメンバーが集まり、エシカルフードアクションの促進をテーマに活動を行なっている。

「ビックデータ×地域課題解決」
きっかけは東北の復興支援

有福

今日瀧田さんには、未来像を描くための素材となるお話を聞けたらと思っていまして、そのためにまず、10年前から今までの変化についてうかがいたいと思います。10年前って何されてました?

瀧田

2011年4月から東北の活動は始めていましたので、10年前の今ごろは、ちょうど南三陸と釜石に2つの児童館を建築し終わった頃です。大変な状況にある被災地で、今どんな遊び場が必要なのか、対話に対話を重ねて作り上げた児童館でした。自分自身のなかでも大きく価値観が変わってきた頃だったと思います。

有福

価値観というと、どんな価値観がどのように変わったのですか?

瀧田

それまでは、いわゆる資本主義の中心にいたというか。宣伝販促の責任者という立場だったので、とにかく目の前にあるサービスの利用促進をして……という仕事ですよね。それが、ものすごく本質的なことを目の前にして、「社会の役に立つために何ができるか」という頭に切り変わっていった気がします。真剣に向き合いすぎて、2011〜2012年あたりって記憶がないくらいなんですよ。

有福

そもそも、復興支援のプロジェクトを始めたきっかけって何だったのでしょう?

瀧田

あの時、日本中の誰もが、東北のために何かをしたい、という気持ちを持っていましたよね。私自身も、経営陣も思っていて、企業は個人よりも力を持っているわけですから、企業として何ができるか考えてみようと。それで、私が責任者となって、「Tカード提示で東北の子どもたちに笑顔を」というプロジェクトを6年間行い、5つの児童館と遊び場の建築、イベント開催などに取り組みました。

有福

その復興支援プロジェクトが、2016年から「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」へと展開していったわけですが、当時、そんなふうに発展させていこうと描いていたわけではないんですよね?

瀧田

そうですね、描いていたわけではなく、つながったという感覚ですね。たくさんの課題が被災地にはあるなかで、まず子どもたちの課題に向き合い、積み重ねていくうちに、「我々にはできることがあるかもしれない」と気がつきました。T会員7000万人の生活者基盤があり、みなさんといっしょにやればできることがある、復興支援を通じてそう深く実感したんです。そこから、我々がお預かりしているみなさんのデータが、もしかしたら社会の役に立つのかもしれない、という発想に繋がって、「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」を立ち上げたという経緯ですね。

有福

瀧田さんと私たちフューチャーセッションズが出会ったのも、2016年のこのプロジェクトからでしたね。ビッグデータを社会のために使うって、今でこそ当たり前のようですが、当時は業界的にも結構インパクトのある話だったのでは?周囲の反応はどうでしたか?

瀧田

社外の有福さんにはすぐ理解していただけましたけど、社内では本当に理解してもらえなくて。当時ビッグデータは企業が利益を上げるために活用するもの、というのが常識でしたから。経済新聞の記者さんにも理解されなかったな。ビッグデータ×地域?しかも6次産業化?どういうこと?みたいな感じで、よく経営陣に承認されたなと思います。でも、Tポイント・ジャパンの当時の社長が、「それはやったほうがいい、絶対に価値があるよ」と背中を押してくれて、やらせてもらえました。すごいことですよね。

2011〜2016年まで行なった「Tカード提示で東北の子どもたちに笑顔を」プロジェクトでは、児童館、みんなの家、みんなの遊び場を建設(「Tカード提示で東北の子どもたちに笑顔を」HPより:https://tsite.jp/r/donation/tohoku/asobiba/)

CCCは社会価値を創出する会社。
「普通に考えて大切なこと」への
理解は早かった

有福

フューチャーセッションズが最初お話を聞いた時って、確か三陸でホヤで丼を作ろうとされていた時でしたね。

瀧田

はい、そうでしたね。三陸の漁業で、1番の利用課題として挙がっていたのがホヤだったんですね。丼のメニューを開発して復興支援のイベントで出すということを検討していた時期でした。でも結局、持続的に活動できるフレームを作りたいねという話になり、スーパーで売れる商品にするには、消費者データからしてもホヤは難しいということに。次に課題となっていたカキを使った加工品へとシフトチェンジすることになりました。

有福

そこの思いきりの良さに感心しちゃうんですよね。復興イベントの1メニューだったら、復興支援の延長でやってるんだなと理解できるんですけど、なぜそこで持続可能な商品を作ろう、と思いきれたのでしょうか?

瀧田

なぜでしょうね?でも、三陸のプロジェクトを始める時から、生活者基盤とビッグデータを活用して社会課題の解決に役立てる、社会価値を創出するんだってことは決めていたんですよね。だから、単発で終わるというよりは、長く続かないと意味がないというのは、初めから持っていた前提ではあったんです。

有福

そこからさらに、未利用魚の問題を発見して「五島の魚プロジェクト」が始まり、サステナブルシーフードや生活者の行動変容にも取り組もうと昨年「Tカードみんなのエシカルフードラボ」を立ち上げて、どんどん繋がって、発展していますよね。振り返ってみて、どう思いますか?

瀧田

私自身は動物的というか、明確に筋道立てて考えて積み上げ式で実行したことは、あまりないんです。だから、ここに向かって、という意識はなくて。社会課題に対して、私自身が、企業人というよりは、一個人としてTカードの資産を活用して何ができるか、向き合ってきたから、自然に繋がってきたということなのかなと思います。会社として、となると、その時の戦略の中でやることになるから、戦略が変わった時に前年度と全く違うことをやらなきゃという状況ってあると思うんです。でも、会社への寄与は当然ありつつ、個人的にやりたいことをずっとやってきたからブレていないというのはあるのかもしれませんね。

有福

その点は、ご一緒していても感じますね。でも、瀧田さん個人のプロジェクトではなくて、それがちゃんと「会社ごと」になっているうまさも感じています。

瀧田

そこは、普通に考えて大切なことをやっているからだと思います。だから、会社のみんなも最終的に納得して、一緒にがんばってくれる。三陸の牡蠣のプロジェクトが形になった時、最初は理解してくれなかった人たちにも、ビッグデータ×地域課題解決ってそういうことか!と言ってもらえました。

有福

一般的な感覚でいうと、CCCがなんで食べ物のことやってるの?という疑問が浮かびそうですよね。7000万人のデータを扱う会社で、TSUTAYAを運営して空間づくりもしていて、食の商品も開発して……CCCって結局、何屋さんなんですかね?

瀧田

創業者の増田宗昭さんは「世の中の役に立つ企画を作って提供する会社」と言っていますね。データベースマーケティングの事業もあるし、TSUTAYAも出版事業もあって、グループ内で本当に多種多様なことをやっているけど、結局は世の中の役に立つもの、「社会価値」を創出することに存在意義があるのだと思います。だから、このソーシャルなプロジェクトも矛盾なく、進められてきたのかもしれません。

「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」第一弾では、三陸のカキを使った加工品を開発。こちらは「カキとバジルのオイル漬け」(「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」HPより)

10年後、一市民の価値は
いっそう高まる。
会社という背景はありつつも
大切なのは「個人」

有福

プラットフォームを提供して、生活者のデータを扱うCCCマーケティングのような企業って、これから先、例えば10年後はどうなっていくと思いますか?

瀧田

かつてデータは企業が利益のために利用するものでしたが、今は個人のもの、という感覚が大きくなっていますよね。社会においても、一市民の存在が大きくなっているなと思います。これから10年で、こういった感覚はもっと増していくのではないでしょうか。企業が用意したものにみんなが乗っかって利用するというようなプラットフォームの姿はそろそろ終わりに近づいているのではないかと。参加する人たちによって有機的に形が変わっていく、そんなプラットフォームができていくような気がします。まさに「エシカルフードラボ」で始めているようなことですね。

有福

正式名称は「Tカードみんなのエシカルフードラボ」ですが、今後はここから「Tカード」が取れるというようなことですか?

瀧田

プラットフォームの未来の話は一般的な話としてのものですが、Tカードという名称はいつかは取れるかなと思っています。今はまだ、Tカードのブランド認知を利用したほうが良い段階ですから、取らないでおこうと思っています。

有福

エシカルフードラボは、10年後どうなっているのでしょうか?

瀧田

より自由になっているはずですよね。最低限のNGガイドラインは作るけれど、それ以外に制限はなくて、新しいものが生まれるためにはどうしたらいいだろうと知恵を出し合える。そんな世界観が、社会の当たり前になっていったらいいなと思います。

有福

エシカルフードラボは、会社関係なく人が集い、知恵を出し合って、ひとつの形になっていますよね。会社ってこの先どうなっていくんでしょうね。

瀧田

ひとつは、目的を達するための個々人の集まりに戻っていくのではないかと。今の会社って、ある目的のために株式会社を作ったのに、資金を調達するために募った株主に向けて利益を出さなきゃとなっている。手段と目的が逆転した状況にある気がします。最近やっと、会社はマルチステークホルダーに向けて活動すべきという話が一般化してきて、変化の兆しを感じます。

もうひとつは、1つの会社でできることってあんまりなくなっていくのではないかと思います。別の会社と一緒に活動することも重要ですし、個人の繋がりが会社の繋がりに転換する、ということもあるのではないかと。例えば、エシカルフードラボで一緒に活動する会社AのBさん。彼のような人は、何千人いる会社Aにたったひとり、代わりはいないんです。もちろん会社のリソースは役に立ちますが、ラボに興味を持って一緒に活動してくれるのは彼個人で、だから会社を超えたつながりって当たり前のものだと思います。

「Tカードみんなのエシカルフードラボ」には、フューチャーセッションズ、CCCマーケティングのほか多様なメンバーが集まる

未来は、より自由になっていく。
みんなが臆さず、
ワクワクを生み出す社会へ

有福

瀧田さんが個人として思い描く、10年後の未来像はどんなものなのでしょうか?

瀧田

やっぱりまず、自由、ということでしょうか。今やっと、社会が個人の自由を認めてくれるようになってきましたよね。私、周囲と同じことをするのがずっと苦手で、子どもの頃は給食をみんなと同じように食べ終わるにはどうすればいいんだろうと悩んでいました。世界のためになって、そして思いついた本人がワクワクできるそんな価値を、みんなが臆することなくライトに生み出せる社会になっていったらいいなと思います。

有福

多様性、ダイバーシティを認め合う社会というイメージに近いことですよね。それぞれが、それらしくあれたらいい。今の日本は、自分らしさはどこかに置いておかれていて、会社では会社の顔、家庭では家庭の顔、その時の役割に応じて使い分けるようになり過ぎていますよね。

瀧田

私自身、5〜6年前からそれがまるでなくなって、すごくラクになったんですよね。それ以前は宣伝販促の責任者で、会社として、会社のために、という意識がすごく強かったから。

有福

瀧田さんのおっしゃる未来像のなかで、「カジュアルに生み出す」という言葉が印象的だなと感じました。みんながカジュアルに価値を生み出す未来に向けて、取り組んでいきたいと思っていることって、何かありますか?

瀧田

すごく個人的な夢になっちゃうんですが、東北の復興支援プロジェクトで作ったような「みんなの家」を、今住んでいる東京の下町に作りたいと思っているんです。プロジェクトでご一緒した建築家の伊東豊雄さんの「みんなの家」は、すべての人に開かれていて、すべての人にとっての居場所になる家です。下町を起点に、いろんな人が集って、これからの東京やこれからの世界について考える、そんな場を作って、その2階に私たち夫婦が住むということを夢見てます

有福

そこがまさに、自由にカジュアルに価値を生み出せる場所なんですね。それにしても、瀧田さんにとって「みんな」という概念はすごく大切なものなんですね。全部のプロジェクトで「みんな」という名称が使われていますよね。

瀧田

本当ですね、自分では無意識に付けちゃっているんです。みんなってつまり、社会、もしくは私たちが存在する世界ということなんですけど。

有福

それこそ広告宣伝の領域って、ターゲティングが重要と言われる世界で、そこと相反する考え方ですよね。具体的に誰なのかターゲットを絞らないと届きませんよとか、そういう言われ方をしちゃうじゃないですか。個人的には、みんなが大事というのはわかるけどうまく説明できなくて、瀧田さんはそのあたりなにか掴んでいそうだなあと思うのですが、どう捉えていらっしゃるんですか?

瀧田

みんなって言うからには、本質的じゃないといけないんですよね。宣伝広告ターゲティングって、ターゲティングした人に向けて、何かしらのモノを売るっていうことなんです。私は、モノができあがる前の本質的な価値を生み出すところからやりたいんです。そして、その本質的な価値というのは、特定の誰かというよりも、広く社会の「みんな」に受け入れられるようなもの。そういったものが、これからどんどん大事になるんじゃないかなと思います。

「南相馬 みんなの遊び場」。瀧田さんが描くのはみんなが自由に生き生きと活動している社会

編集後記

新しい価値は、誰がどのように生み出していくのか?そして、それはそもそも何のために生み出していくのか?「みんな」という概念に象徴されるように、今まであまり気にされなかったようなことが、これからはとても大事になっていく気がします。これまでの発想とは全く違うメカニズムで世の中が動き出し、広がっていく兆しを感じました。誰もが自由にワクワクしながら価値を出していく時代に、フューチャーセッションズは、共創を促進するプラットフォームに進化していければと感じています。

(有福)

プロフィール

瀧田 希(たきた のぞみ)
CCCマーケティング株式会社
コミュニケーション戦略室
プロデューサー

2002年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社。Tポイントの宣伝販促業務に従事。2011年より「Tカード提示で東北の子供達に笑顔を」プロジェクトを立ち上げ、東北3県に5軒の遊び場を建築。2016年にはTポイントのブランド担当として6,000 万⼈超のT 会員基盤、T ポイントアライアンス企業ネットワーク、T カードがもたらす約50 億件の購買データなどを活⽤して社会や⽣活者に還元、貢献をしていくT カードの社会価値創造プロジェクト「Tカードみんなのソャルプロジェクト」を立ち上げ、2021年からは「Tカードみんなのエシカルフードラボ」ラボリーダーも務める。

有福 英幸(ありふく ひでゆき)
株式会社フューチャーセッションズ 
代表取締役社長

2012年フューチャーセッションズを創業し、2019年より代表取締役社長に就任。クロスセクターの共創による社会イノベーションの実現に向けて、市民参加型のまちづくりや企業主体のオープンイノベーション、産官学民連携プラットフォームの運営など、多数のプロジェクトを推進。前職の広告会社で培ったブランディングやクリエイティブ、環境問題をテーマにしたメディア運営の知見を活かし、エネルギー、食の観点からのシステムチェンジに注力。2021年から「Tカードみんなのエシカルフードラボ」に参画。