Future Signs 未来の兆し100 特別対談 原点は対話 自然志向が根付いた社会の実現に向けて

フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。

株式会社スノーピーク
ビジネスソリューションズ

Future Sessions

日本のキャンプ業界を牽引し、イノベーションを起こし続けてきたスノーピーク。コロナ禍を経て、世の中が自然志向の生き方へと大きくシフトする中で、これからの未来に向けて「衣食住働遊」のすべてが融合し、人々が自然を身近に感じながらいきいきと暮らせるような事業提案を行っている。

原点としての「対話」の重要性
会社の外に向いていた
意識を内側に向ける

上井

今日は村瀬さんが描く未来と、そこに向かうためのアクションについてお聞きしたいと思います。まずは過去を振り返って、10年前はどこで何をされていましたか?

村瀬

まだ会社もスノーピークビジネスソリューションズではなく、アイ・エス・システムズの時ですね。会社をつくったのが2000年ぐらいなので、そこから10年ほど経って、現場に寄り添ったシステム開発が重宝され、これで生きていけそうだなと思っていた頃です。いろいろなことがうまく回り始めて自分が安定してきたので、友人の会社を支援したり、周囲と関わりを持とうと動いた時期ですね。会社もそれまで中途採用だけだったのが新卒を採用して、皆がいきいきと働き始めて、今の土台が作られた頃だと思います。

上井

事業が軌道に乗って、次に周囲に目が向いていったんですね。

村瀬

そうですね、会社も次のステージに行かなければならないと考えていました。そうした時に、人の役に立ちたいと思い過ぎたところがあったのかもしれません。しかし、人助けのつもりでやったことが仇となってしまったことがあり、結局は相手を救うことで自分がどこかいい気持ちになっているところがある。そんなことに気付かされた時期でもあります。

2011年の震災後、ボランティアで1か月ほど現地に行った時にもそれを感じました。外から災害支援で入ってきた人たちは意気込んでいるけれど、現地の人たちは悠々と作業している。あくまで自然体なんです。片付けなんて山ほどあって、必死になってやったところでどうにもならないんですよね。現地の人たちも、手伝いたければゆったりと自然にやってね、という感じで。こちらは被災した人たちを助けに行ったつもりだけれど、逆に教えられることのほうが多かったんです。
社会貢献第一と思って必死にやろうとしても、できることはたかが知れているな、と。でも同時に少しずつ皆が関われば大きなことを起こせる可能性もあるんじゃないか、とも思いました。

会社の外に意識が向いて内側のことをあまり見ていなかったということへの反省もありました。社員との関わり方についても意識が変わって、皆が人生を設計していくのに対話を増やさなければならない、と考え始めたのもこの頃です。

上井

村瀬さんが自然体や対話を重視されるというきっかけは、そこだったんですね。

村瀬

前職のキーエンスでは、営業戦略やどうやったらお客さんの心が動かせるか、ということを学び、現場の大切さがわかって起業しました。ビジネスとしてうまく行き始めて人の役に立とうとしましたが、結果的におせっかいがうまくいかなくなって、原点の対話に戻ったという感じでしょうか。やはり、コミュニケーションや対話が大事だというのが原点にあるんだと思います。

想像もしていなかった
「マスに対する発信」というトレンド

上井

村瀬さんが10年前には想像していなかったことで、2022年の今、起きていることはありますか?

村瀬

未来に対しては予測していたので、その通りになったこともたくさんあります。例えば、自然との関わり方や対話の重要性は、その当時以上に重視されていますよね。思っているからそこに向かっているという感覚もあります。

逆に、想像もできなかったこととしては、自分自身を発信する人がこんなにもいるんだということ。以前は、発信することへの特別感がもっとあったし、スマホを持って全員が何かあったら常に発信するというような世界が来るとは全く思っていませんでした。自分の考えの中には、マスに対して個人が情報を広げていって連鎖を生む、というやり方が無かったので、この変化にはびっくりしています。

一方で、発信しないと何もやっていないように見えるので、面倒でも伝えるための義務として行っている側面もありますよね。。

上井

それは本音かもしれません。テクノロジーやデバイスの進化によって、価値観が大きく変化しました。村瀬さんは、現場や仲間たちを重視しながら、価値あるものを作り続けてこられたからこそ、マスに届けるという方向性に違和感を感じられるのではないでしょうか。

村瀬

これまで、都市一極集中で効率のためにいろいろなことを人間がやってきて、破壊してきたものもあると思います。それが、地域コミュニティだとしたら、これまでのような効率だけを求めてマスに対して宣伝するとか、コミュニケーションすることには違和感を持っています。

上井

次の10年で、これまで同様にマスに対して効率よくコミュニケーションするのか、最小単位との関係を作り上げていく流れになっていくのか、大きな分岐がありそうですね。。

村瀬

トレンドというのは大きく変わるものです。どちらに向かうかはわかりませんが、より多くの人に伝えることも大事なときがあります。気候変動なども待ったなしの状況なので、より多くの人達にコミュニケーションすることも、うまく利用することを前提にやらないと、解決が間に合わないのではないか、という危機感は持っています。

10年後は「自給自足」を
提供できる人が
必要とされるように

上井

次は未来の話をお聞きします。10年後の2032年にはどんなインパクトが起きていそうでしょうか?

村瀬

私が自然回帰や働き方の変革にピンときたという感覚からすると、次のムーブメントは「自給自足」だと考えているんです。自給自足できる場所やノウハウを皆が欲しがって、それを提供する人が必要とされるのではないでしょうか。

上井

なるほど、自給自足ですか。スノーピークが目指されている世界観とリンクするものがあります。

村瀬

身の回りでインフラが止まった時に、10年生きられるという人はなかなかいないですよね。とくに都会に住んでいる人は、食糧など流通が止まってしまうと持って1か月でしょうか。
10年後について、最悪のシナリオと最高のシナリオが考えられると思いますが、どちらに転んでも自分で生きていく力を持たないと生きていけない時代に突入するのではないでしょうか。やはり生きていくための食べ物や居場所を確保しないことには、社会貢献や対話どころではないですよね。
最悪のシナリオというのは、戦争が始まったり、不可逆的な温暖化で住む場所が無くなったり、海面上昇があったり。10年以内にすべてが起こるとは思いませんが、戦争はわかりません。輸入が止められたら日本はどうなるかわからないし、略奪があるかもしれない。起こり得るシナリオとして、頭には入れておかないといけないと思います。
最高のシナリオとしては、切羽詰まった人たちのエネルギーが行動につながり、一気に自然志向の生き方に流れがシフトして、そこにニーズが引き寄せられているという状況です。今あるインフラを使いながらも、未来に向かってより発展しながら現状の課題も解決していく。一人一人が自給自足できて、生きることが安定した土台にあれば、余裕を持って生きていくことができるのではないでしょうか。

上井

まさにスノーピークがやろうとしていることが、次世代のリーダー像だと感じます。組織としてイノベーションを起こしたくても、そのフィールドや方法論が無いときに、スノーピークが間に入ることで加速できることがある。自然志向であり、自然との融合ですよね。

村瀬

スノーピークがそれを根底におきつつ、キャンプという形で実現してきたとすれば、その先にあるものは何かということを考えて、具体的な方法論として提示しようとしています。ビジネスとしても成り立ち、未来につながるきっかけを作って、より豊かな社会を作りあげることができたらよいなと思っています。

上井

キャンプ業界を日本で変革したスノーピークが、今度はそういった形で概念を変えていく存在になっていきそうです。10年後の未来社会の姿はどうなっていると思いますか?

村瀬

日常の衣食住働遊、すべてがそこに混じっていて、人々が交流しているのではないでしょうか。経済だけでつながっているのとはちょっと違う世界ができ始めている、ということを目指しています。
しかし、自分たちだけでできるとは全く思っていないので、より多くの人たちが関わることで成し遂げるものだと思っています。このベストシナリオに向かっていくためには、まず自分たちが見本となって推進するぞという自負が必要です。

ニコっとしてペコっとすればいい。
「ニコペコ」は組織の風土を
耕すアクション

上井

ベストシナリオに向かっていくための働き方、生き方をしていきたいです。
自分たちが、見本となって行動していくことが大事という話しでしたが、スノーピークビジネスソリューションズの社員の方々は、皆さんそれぞれの強みを活かして自信を持って働かれていますよね。社員同士も社外の人ともうまくコラボレーションしながら、楽しそうにいきいきと働いているのが印象的です。

村瀬

それは嬉しいですね。最初から難しいテクニカルなことを話すより、目を合わせて微笑んで会釈できるかどうかで、関係性の第一歩目は決まると思っています。「ニコっとしてペコっとすればいい」と言っているんですが、「ニコペコ」です。

上井

それは魔法の言葉ですね!ニコペコは組織の風土を耕すための重要なアクションだと思います。ただ関係性をつくれ、と言われても何をすれば良いかわからないけれど、ニコっとしてペコっとすればいいんだというカルチャーがあるのは救われます。

村瀬

Zoomでも、たくさんの人が映っている時に死んだ顔をしている人っていますよね。いつワイプされてもいいように、ちょっと微笑んでるぐらいじゃないと。究極は心の変化をあまり出さず、ある一定の高いレベルでいつもご機嫌でいるのが大事かな。落ちている時間がもったいないと思っているので、スッと戻れるような状態を目指しています。

上井

それもひとつの自然の法則かもしれないですね。怒ってるようにみえてしまうと行き違いから争いになるけれど、良い状態を保ち、お互いに良好な関係を作ろうというのが本来あるべき姿です。

村瀬

そうしていれば、喧嘩も対立もありません。みんなが同じ地球、同じ時代に生まれているのに、なぜ争わないといけないのか。協力するしかないんですよね。奪い合いや競い合いをしていれば破滅に向かっていく、というのは自然界に耳を傾ければ見えてきます。

10年後のベストシナリオに向かって
コツコツと積み上げて
大きなものを生み出せる組織に

上井

10年後のベストシナリオに向けて、これから取り組みたいことはなんでしょうか?

村瀬

自分だけが何かすごいものを発明して変えてやる、というのは簡単ではありません。なにか変えられるとすれば、今のようにコツコツと積み上げていくことでしょうか。目の前にある自分、家族、社員の人生を大切にしつつ、皆で積み上げていった結果、大きなものが生み出せている状態というのが理想です。それが相乗効果となって大きなパワーとなるような、そういうきっかけを作り続けられる組織でありたいと思っています。

上井

最後に、フューチャーセッションズと村瀬さんのこれまでの10年とこれからの10年について、伺えますか。

村瀬

僕らが考えていることを形にしてサービス化してくれたのがフューチャーセッションズです。スノーピークでは、対話で価値観を伝えたり関係性を良くするということをずっとやってきたけれど、それをセッション型で実践してくれたことや、様々な仕掛けがあることに感動しました。ものごとを体系化して形にし、人に伝えられるようにするというのはすごいことだと思うんです。
うちのメンバーもフューチャーセッションズと出会って大きく変わったし、体系化されたものを学ばせてもらったことでスキルを身に着け、アウトドア研修でもファシリテーションが素晴らしい、とほめられることもあります。メンバー同士も良好な関係が築けることで、次のサービスにつながるというスパイラルアップしている感覚があります。この経験やプロセスを土台にして、ひとつのセッションから企業の変革、イノベーションにつなげるようなモデルを一緒に作っていけたら最高ですよね。

編集後記

自然の法則を大切にしながら経営されてきた村瀬さん。
時代の変化も伴い、自然とテクノロジーの融合において、その存在感がさらに増し、対話をする度に多くの気づきを頂いております。
また、「対話」を通じた、健全な組織づくりを進められてきたスノーピークビジネスソリューションズのメンバーとのお仕事は、とても清々しく気持ちの良い時間です。
これからも、「自然と、仕事が、うまくいく。」働き方の輪を、フューチャーセッションズとしても、さらに仲間を集め、広げていきたいと思いました。

(上井)

プロフィール

村瀬 亮(むらせ・りょう)
株式会社スノーピーク 専務取締役
株式会社スノーピークビジネソリューションズ
代表取締役

愛知県岡崎市生まれ。(株)キーエンスで10年務めたのち、現場に寄り添ったシステム会社が存在しないことに気づき、(株)ハーティスシステムアンドコンサルティングを設立。在庫管理システムやクラウドサービスの提供で、業務の効率化や生産性の向上を提案してきた。ITを定着させるためには社員の関係性が最も重要であると考え、社員がいきいき働ける会社づくりに尽力する。2016年、 (株)スノーピークと共同出資で (株)スノーピークビジネスソリューションズを設立。自然の壮大な力とテクノロジーの無限の可能性を健全に融合し、企業の人材問題を解決するためのサービスを提供し続けている。2021年、 (株)スノーピークの専務取締役に就任。

上井 雄太(うわい ゆうた)
株式会社フューチャーセッションズ

慶應義塾大学卒業後、2013年5月に株式会社フューチャーセッションズの掲げるビジョンに共感し入社。
2013年9月には当時日本人最年少でIAF Certified Professional Facilitator(国際ファシリテーターズ協会認定プロフェッショナル・ファシリテーター)を取得。
企業、行政、ソーシャルセクターの横断を軸に、企業の新規事業創造や組織変革、行政の社会課題解決やまちづくりなどの年間80回を超えるファシリテーションを実施。
2018年「共創ファシリテーション研修プログラム」をスノーピークビジネスソリューションズメンバーに提供。
2021年より、共創コミュニティ形成における新しいモデルづくりや、教育をテーマにしたプログラム開発を(株)スノーピークビジネスソリューションズと共同検討中。