フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。
環境省
Future Sessions
環境省は、地域資源の活用や自治体や地元企業、学校などとの連携により環境・経済・社会的問題の解決を図る「地域循環共生圏(ローカルSDGs)」の実現を目指している。 2021年6月、環境省は地域と一体となったクラブチームづくりを以前から推進してきたJリーグと連携協定を結んだ。さらに同年10月には、「スポーツの力で国立公園を活性化する」ことをテーマにサッカーJクラブ、環境省、旅行会社のクラブツーリズム、フューチャーセッションズの4者が連携し、国立公園活性化のためのモニターツアーも開催した。
何かをはじめるときは、
頭を使うより、
体を動かした
リアルな交流が役立つ
上井
環境省の方と初めて仕事をご一緒したのは、サッカーJクラブ、旅行会社のクラブツーリズムと連携して行った、国立公園活性化のツアー企画でした。その時、クラブツーリズムの方から「環境省に面白い仕事をなさっているすごい方がいる」と紹介いただいたのが楠本さんで、国立公園の企画にもアドバイスをいただきました。
楠本
初めて上井さんとオンラインでお会いしたのが1年前くらいですね。
上井
その後は、環境省が主催する、気候変動とスポーツについてのオンラインセッションにも楠本さんにご参加いただきました。あとは、環境省とJリーグ連携協定の一環で行っている、「環境省×Jリーグ勉強会」で現在もご一緒させていただいています。
楠本
上井さんと初めてお会いしてからの期間は短いし、リアルでお会いした回数も10回もないくらいですが、コロナ禍でWeb会議ツールがとても便利に使えるようになったことで、密にやりとりができたと思います。今ではオンラインで、上井さんがパスタを食べながら僕とミーティングをするほどの親密な仲ですよね(笑)。
上井
毎回ではないですよ!1、2回くらいです(笑)。
楠本
僕たちが一緒に取り組んでいる仕事は、サッカーを通じた地域活性化に関わる企画が主で、リアルな交流が必須のものです。会議はオンライン、企画実行はリアルな場。上井さんとのお仕事は、オンラインとオフラインがバランスよくミックスされていて、効率的で自身も理想とする働き方ができていると思っています。
上井
関係性づくりにおいて、楠本さんからすごく学ばせていただいたことがあって。僕がJリーグ社会連携メンバーの一員として参加している、環境省とJリーグの勉強会で、「どうしたらメンバー同士がより連携を強めていけるか」について、メンバーで考えたことがありました。コロナ禍だということもあり、僕が「まずは、全員でオンラインミーティングをしましょう」と提案したら、楠本さんが「それもいいけど、堅いミーティングよりも、まずはみんなでボールを一緒に蹴りましょうよ」と提案してくれて。感染対策を十分に講じた上で、サッカーをみんなでやりました。参加者の多くがサッカー好きだったということもあり、とても盛り上がり、その時からメンバー同士の近さというか、勉強会の雰囲気もガラリと変わりました。
楠本
環境省でも、何かをはじめる時は、頭を使うよりも、体を動かして交流することを大切にしています。ミーティングばかりするより、一度でいいから体を動かして何かを一緒にする方が仲がグッと深まるんです。公務員らしくない考え方だね、とよく言われるのですが(笑)。上井さんとご一緒する中、オンラインとリアルな交流のバランスの上手な取り方を学ばせていただきました。
10年前から「環境問題」に
対する意識が変わり、
地域社会第一の課題になった
上井
10年前、思いもしなかった出来事についてお伺いします。そもそも10年前、楠本さんは何をされてました?
楠本
ゴミの不法投棄対策関連の仕事をしていました。当時は大規模な不法投棄は減っていましたが、残された膨大なゴミの山の処理をどうするか、というところでした。例えば冷蔵庫も10台が投棄されているというレベルではなく、1000台、もっと多いものが同じ場所に捨てられていて、これをどうするか、と。不法投棄すれば、捨てる側は処理費用もかからないし、山奥だから目につかない。地域にとっては負担を押し付けられるという状態です。不法投棄についての仕事は、マイナスのものをゼロにするようなものでした。
上井
10年前と現在、仕事の内容に変化はありましたか?
楠本
今は環境問題のメインが気候変動問題になってきています。環境問題に対する人々の反応も10年前から大きく変わりました。
10年前は一部の人達が取り組んでいた、つまり現在の生活を続けた先にどんな未来が待ち受けているか、意識する人がまだ少なかった。だから、「このまま地球温暖化が進むと、南極の氷が溶けて世界中でこんなに水没する地域が出てきますよ」とか、「日本でもお米が作れなくなる地域が増えますよ」という、いわば脅し文句のようなことを並べて、人々に問題意識をもってもらうような取り組みをしていました。
でも現在は、ゲリラ豪雨や気温の上昇などの気候変動を肌で感じながら、脱炭素社会を目指さないと自分たちの未来がどう悪化するのかを、多くの人々が想像できている状態になりました。今、僕たちが取り組んでいるのも、脱炭素社会を実現するため、具体的なアクションを呼びかける活動や具体的行動に変化しています。
気候変動に関する表現も10年前は「地球温暖化」という言葉だったのが、今では「脱炭素化」という手段そのものを指す言葉に変化しています。環境問題への取り組みが、「意識づけ」から、「アクションの呼びかけ」に変わるということは、10年前には想像していませんでした。
上井
気候変動がきっかけで、環境省とJリーグが協定を結ぶということも、僕は10年前には想像もしていませんでした。
楠本
全くなかったですね。地域における環境問題の立ち位置が、この10年で随分変わったことも影響していると思います。10年前は、地域にとって、観光誘致や道路の整備などが優先事項で、ある意味で環境問題は二の次でした。ところが、最近は「環境問題に対処していかなければ、地域において何事もできない」という意識に変わってきました。気候変動に対処しなければ地域の特産品も育たないし、積雪地域では観光資源である雪が失われてしまう。地域の課題の核として「環境問題」が意識される世の中に変わってきました。
上井
僕も、Jリーグ社会連携チームに参加していますが、4年前にチームが立ち上がった当時は、活動テーマとして「環境問題」はあまり意識されていなくて。ここ1年で環境省と協定が結ばれて、ようやく環境への意識が高まってきた気がします。
スポーツ界においても、Jリーグと環境省の協定により、以前からJリーグが取り組んできた地域活動が、SDGsへの貢献につながっているということが広く知られることとなりました。Jリーグクラブが新しい価値を社会において発揮するチャンスにもなっていますね。
楠本
この10年で、環境問題は無視できない問題になってきたということですね。人間にとって本当に過酷な未来は、僕たちの生きている間には未だ到来しないかもしれない。でも、数百年後には人類が滅亡してしまうかもしれないという危機感をリアルに抱けるようになったのが現在です。僕たちは、「未来に絶望している世代」とも言えますね。
今後は、地域の
ステークホルダー全員が
社会課題について対話し、
未来を共創する場が必須になる
上井
この先10年後、どのような未来が想像できるでしょうか?
楠本
10年後はあっという間にやってくると思います。政府全体では、2050年を見据え、カーボンニュートラル(※)を目指すことを宣言しています。2030年には温室効果ガスの排出量を、2013年に比べて46%削減することを目指していますが、それすらも、より一層頑張らないと実現できるか分からない状況です。そうなると、これからの10年間で、この社会が大きく前進することはあまり期待できません。10年でできることって限られているんです。環境問題というのは非常に長期的な視野を持って取り組んでいかなければならない。だからこそ、10年後以降も疲弊せず、環境問題に対するアクションを続けられるような仕組みをこれからつくらなければいけません。
10年後の日本は、総人口も、働き盛りの年代も減って、地域で意欲的に課題に取り組める人も減り、疲弊しているかもしれません。そんな状況で、「環境問題なんて取り組んでいられないよ!」という声が地域からあがることも想定できます。そうならないために、環境問題が地域にとって当たり前の、重要課題であることを認識してもらい、その解決策になり得る、地域固有の強みにも気づいてもらうことが必要ですね。
(※)カーボンニュートラル…二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出をゼロにすること。ガスの排出量から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いた合計を実質的にゼロにすることを目指している。
上井
地域の人々の意識を変え、自分たちの持つ強みを知り、アクションを起こしていくには、どうしたらいいのでしょうか?
楠本
地域が何か新しいことをはじめる時、役所や、例えば観光協会や観光業の当事者だけでアイデア出しを行う例があるのですが、飛び抜けたアイデアは出てきにくいと感じています。その地域に関わる学生、主婦の方、高齢者や子ども、地元のスポーツクラブなど、さまざまなジャンルの人々が喧々諤々と意見を交わす方が良いアイデアが生まれてくると思うんです。地域に関わるすべての人が議論できる場をつくることが大切だと感じています。これって、フューチャーセッションズさんがまさに取り組んでいらっしゃる「対話と未来の共創」ですよね。そして、対話の場には進行役が欠かせません。上井さんの素晴らしい「ファシリテーション力」がまさにこれからの10年、必要になってきます。今、上井さんのこと、褒めてますよ(笑)!
上井
照れますね(笑)。一方で僕が思うのは、地域の議論の場において、ステークホルダーとファシリテーターがいるだけではダメで、専門知識を持った方が必要だということ。例えば、環境問題について対話するのなら、楠本さんのような環境に関するスペシャリストがいることで、議論の質が高まっていくと感じています。
さらに、対話の場には熱い想いや熱量も必要ですね。
楠本
地域には「地域のために何かをしたい」という熱量の高い方がかならずいらっしゃいます。想いがある人の行動力は何よりも、地域の原動力になります。愛があるから持続力もあるんです。一方で、その熱量が誤った方向性と結果を招いてしまう例も見てきました。
上井
だからこそ、熱量の高い方も含め、地域に関わるさまざまな人々が知恵をだし、課題を解決するため、地域のアクションを正しい方向に導くための対話が必要なのですね。
楠本
上井さんは、僕のことを「環境のスペシャリスト」と言ってくださいましたけど、僕たち行政の仕事は、「対立する課題の解決策を模索し、地域でバランスをとっていくこと」だと思っています。例えば、環境保全のため、植林など山を守る活動をしている地域で、生活の利便性向上のため、山を切り拓いてトンネルをつくろうという話が持ち上がったとします。地域にとってはどちらも必要なことなんです。自然を守る活動と、生活の利便性の向上、両方を実現する道を模索するのが行政の仕事です。その結果、利便性向上の方法としてトンネルを掘る以外、例えば、ドローン輸送などの別の手段に辿り着くかもしれません。そういう新しい発想は、地域の方々と、我々のような外からの目線、両方が合わさった時に最も生まれやすいと思います。
上井
環境省のこの国における役割は今後、さらに重要度が増していきそうですね。省庁の方というと、堅いイメージを抱いていましたが、楠本さんはしなやかで、アイデアも沢山お持ちで、イメージが180度変わりました。
少し視点を変えて、環境とスポーツの関係は今後10年、どうなっていくと思いますか?
楠本
もっと密接な関係になっていくと思います。スポーツって、突き詰めて考えると「自分たちが楽しみ、生きる場をつくること」だと思います。楽しい場には人が集まってきます。人々が純粋に楽しむことができて、身近な存在であるからこそ、スポーツが地域社会のハブとして、役割を果たしていくと思います。スポーツクラブなどの活動は、人々が目を向けたがらない環境問題など、地域の課題に目を向けてもらうきっかけとして、絶対に必要だと思います。
「温泉」という地域資源を核に、
コミュニティを創造したい
上井
今後10年、環境問題に持続的に取り組むための地域の体制づくりが重要になるというお話をお伺いしました。そこへ向けて、楠本さんはどのようなアクションを起こしていきたいとお考えでしょうか?
楠本
突然ですが、温泉地の活性化を行っていきたいと考えています(笑)。
上井
温泉地ですか!なぜ、「温泉」に注目されたのですか?
楠本
もともと、環境省は「温泉法」という温泉に関する法律の運用をしてきました。法律の運用だけではつまらないし、温泉そのものの発展には繋がりにくいこともあり、温泉地の活性化に取り組むセクションが数年前に立ち上がり、それ以来、僕も所属して温泉地活性化の仕事に従事しています。温泉は環境にやさしい自然エネルギーであり、地域の大切な資源です。そこに設備を整えて観光客を呼び込む、というより、その地域資源を核にどのようにコミュニティをつくっていくかを考えるのが、環境省の仕事です。
アクションを起こす時に、想いや熱量が必要という話を先ほどしましたが、僕が熱い想いをもって取り組んでいるのが、まさにこの仕事。個人的にも温泉が大好きで、出先のあちこちで、良い温泉がないか探してしまうほど(笑)。だからずっと温泉の仕事を続けられているんだと思います。
上井
温泉地の活性化のため、具体的にはどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
楠本
「温泉地サミット」と称して、全国の温泉地で温泉地の今後や地域のことをみんなで考えてもらうきっかけづくりなどを自治体と連携して行っています。行政の仕事は、温泉そのものなどのハードをつくることだと思われがちですが、それだけではなくて、地域の人々が集まってアクションを起こしていくことこそ、課題解決において価値があり、環境省が実現していきたいことでもあります。有効なアクションを巻き起こすコミュニティをつくるには、地域に住む方々以外の関係人口も巻き込んでいくことが大切です。ローカルな課題にしっかりと地道に取り組んでいくことが、環境問題などのグローバルな課題の解決につながると思います。
上井
小さなアクションの循環が、大きな取り組みにつながるというのは納得です。環境とスポーツの取り組みにおいても、少人数を集めて国立公園でツアー企画を行う小さな取り組みから始めたことが、新しい企画に結びついて、大きなアクションに発展しているのを感じます。
楠本
今後、温泉地の活性化のため、僕が個人的にやっていきたいと考えているのが、湯治の推進と温泉地を利用したワーケーション企画。地域に滞在してもらい、温泉地の関係人口を増やすきっかけとして沢山の人に温泉を利用してもらいたいと考えています。日常的に人々が温泉をつかうようになれば、そこにコミュニケーションが生まれ、地域の発展につながっていくのではないかと。僕たちが旗印となって、地域に色々な人が集まるきっかけをつくり、地域のことを考える場を提供したいと思っています。
上井
今度、とある温泉地でフューチャーセッションを行う予定で、楠本さんにもご相談しています。単にセッションするだけでは面白くないので、温泉に浸かりながらのセッションや、「湯上がりセッション」も面白い、と盛り上がりましたね(笑)。これからこの企画もどうなっていくか、とても楽しみです!
楠本
僕らのような外部の人間が地域で役に立つ部分もありながら、最終的にアクションを起こしていくのは地域の方々。だからこそ、そのアクションが起こる場所をつくったり、他の地域で得た自分の知見を提供して、地域課題解決のためにどんなことができるかのアイデアを一緒に考えていきたいですね。
編集後記
楠本さんとは、お互いスポーツ、サッカー好きということで意気投合しました。
共通の趣味で繋がりながら、気候変動の問題やそれに対する環境省の取り組みについて、色々と教えていただきました。
その中で、環境省が推し進める「地域循環共生圏(ローカルSDGs)」の具体化に関して、フューチャーセッションズが手がけてきた、共創プロセスやスポーツ共創が貢献できる可能性を大いに感じています。
これから、とある温泉地を舞台にご一緒できそうなプロジェクトがあるので、楽しみです。新しいモデルづくりに挑戦していきたいと思いました。
(上井)
プロフィール
- 楠本 浩史(くすもと ひろし)
- 環境省関東地方環境事務所
地域脱炭素創生室
2006年入省。
地球温暖化対策や不法投棄対策等の業務、そのほかいくつかの業務を経て現職に至る。温泉法の運用を担当したことをきっかけに、温泉地活性化業務にも約6年間携わり、温泉地の未来を考え、新興につなげる「温泉地サミット」等を企画、主催する。長年築き上げてきた全国各地の温泉地との関係性や積み上げてきたノウハウを活かし、ハード面の整備だけでなく、地域資源を核としたコミュニティづくりに尽力している。また、環境省とJリーグの連携チームのメンバーとして勉強会に参加、具体的なプロジェクトの実施に結び付けることを目指している。
- 上井 雄太(うわい ゆうた)
- 株式会社フューチャーセッションズ
IAF Certified™ Professional Facilitator
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所研究員
Jリーグシャレン!コアメンバー
慶應義塾大学卒業後、2013年5月に株式会社フューチャーセッションズの掲げるビジョンに共感し入社。
2013年9月には当時日本人最年少でIAF Certified Professional Facilitator(国際ファシリテーターズ協会認定プロフェッショナル・ファシリテーター)を取得。
企業、行政、ソーシャルセクターの横断を軸に、企業の新規事業創造や組織変革、行政の社会課題解決やまちづくりなどの年間80回を超えるファシリテーションを実施。
現在は、スポーツ共創ファシリテーターとして、Jリーグ社会連携プロジェクト、企業アスリートのデュアルキャリア形成を意図した「NTTコミュニケーション シャイニングアークス未来プロジェクト」、三菱地所「丸の内15丁目ノーサイドダイアログ」など「スポーツ×ビジネス×地域」をテーマにした多数の共創セッション・プロジェクトに従事。
2021年「環境省 大山隠岐国立公園×ガイナーレ鳥取」サステナブル共創ツーリズム企画運営。2021年「環境省 中部山岳国立公園×松本山雅FC」サステナブル共創ツーリズム企画運営。環境省 気候変動×スポーツWebサイトスポーツ連携担当。環境省×Jリーグ勉強会ファシリテーター。