フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。
株式会社オリィ研究所
Future Sessions
イノベーション・ファシリテーター講座の受講を機に、より社会にインパクトを与えるようなイノベーションを起こしたいという気づきを得たという、オリィ研究所の中吉 雅代さん。遠隔操作型分身ロボット「OriHime」を活用して、外出困難な方々がスポーツと触れ合う観戦ツアーやスポーツ選手と地域住民を繋ぐ試みなど、人と人をつなぎ、社会参加を促すようなプロジェクトを推進している。
イノベーション・ファシリテーター講座での
学びを実践する
上井
中吉さんと最初にお会いしたのは、2014年5月のイノベーション・ファシリテーター(以下、イノファシ)講座第二期の初日でした。
中吉
もう8年も前になるんですね。当時、私は大手セキュリティメーカーで新規サービス開発に関わる仕事をしていました。サービスの付加価値を高めるために、フューチャーセッションの手法が効果的だと思ってイノファシ講座を受講したんです。参加してみると、企業の枠組みに捉われず、既に社会のためにさまざまな取り組みをされている大先輩がたくさんいらして刺激を受けました。
それまで私自身は企業の枠組みの中でどのように自分が仕事をするか、という意識が強かったのですが、そこから脱却するきっかけにもなりました。
上井
もともと、中吉さんは以前からそうした働き方をされている方だという印象だったのですが、そうではなかったんですね。
中吉
社内のタスクフォースメンバーで繋がって新しい取り組みを実施したりはしていましたが、社会にインパクトを与えるようなイノベーションを起こしたいというのはイノファシがきっかけで思うようになったことです。
新規サービス開発にあたり、ユーザーインタビューや市場調査だけでは本当のニーズが得られないという課題を感じた際に、講座で学んだばかりのフューチャーセッションを使ってみようと思ったんです。そこから、お客様と、社内の各部門の新規サービス開発に関わるメンバーを集めて、フューチャーセッションをほぼ毎月、1年間実施しました。お客様が感じていること、求めていることが、想いや言葉でダイレクトに届くので、新規サービスを開発する際に、社内の各部門の認識のズレなどもなくなって、その場で上がった課題をどう解決していくか、お客様たちの様々なリアルな視点も入れながら、実現していくことができたと思います。
上井
学びの場で得たことをなかなか実践に落とせないという課題感を持たれている方が多い中、中吉さんはそれを業務の中に実際に取り入れて継続され、成果も出されていたように思います。
中吉
フューチャーセッションで作った新規サービスがとても好評で売り上げも上がり、結果として、チームで社長賞を頂き、皆でハワイでの表彰式に参加できたのは感動的でした。その発表と同じ日に、イノファシでも知識創造賞を頂き、ダブルで嬉しい日になったことは、とても素敵な思い出です。
上井
イノファシで出会ったメンバーと、その後も様々な活動をされていますよね。
中吉
そうなんです。イノファシのメンバーとは、様々なテーマで関連するステークホルダーにお声がけしてフューチャーセッションを実施していましたし、他にも大学などで開催されていたフューチャーセッションにも、仲間と参加したりしていました。オリィ研究所とつながったのも、イノファシの先輩である高野元さん、竹内美奈子さんとの出会いがあったからこそです。
ALS患者である高野さんの病状が進行した時に、他の患者さんたちと一緒にバスケットボールのBリーグ観戦をしたいということになり、リアルで行けない人はオリィ研究所の遠隔操作型分身ロボット「OriHime」で参加してもらったらいいのではないかということになったんです。当時オリィ研究所が三鷹にあって、私が近くに住んでいたのでOriHimeを借りてくることになりました。そこで代表の吉藤オリィとお会いしたことで、オリィ研究所の取り組みにとても共感し、大企業にいながらボランティアとして、様々なプロジェクトに入らせて頂くことになり、その後、しばらくしてオリィ研究所にジョインすることになりました。先輩の高野さんが、身体が動かなくなっても、テクノロジーを活用して、以前と同じようにお仕事をされて、ご活躍されているのを見て、とても感動しましたし、このような働き方が社会のスタンダードになれば素敵だなと思いました。
上井
イノファシの出会いがこういう形で未来につながるとは、当時は想像できなかったことですよね。
中吉
一人ではできないことですが、想いが同じ仲間がいるから、なんでもやってみようという気持ちになれました。サードプレイス的な繋がりの場として、自分の人生に大きな影響を与えたのは確かだと思います。
震災後に芽生えた
「社会に貢献したい」という想い
上井
ところで10年前、2012年は何をされていましたか。イノファシの2年前ですね。
中吉
2012年の1年前、震災があった2011年は、プロジェクトマネージャーをやっていて仕事に追われる日々でした。ちょうど3月11日は体調が悪くて休んで家にいたところ、地震が起きたんです。翌週の仕事のスケジュールもすべて変更になり、それまでずっと自分が忙殺されていたことのプライオリティが実は低くて、もっと大事なことがあるのではないかということに気づかされました。
翌年の2012年、被災地の気仙沼に会社としてボランティアで行く機会がありました。ボランティアの活動や現地の方々との交流を通じて、自分自身が、これまでものすごく狭い世界で会社に与えられたことに追われていたのではないか、と感じましたし、そうしたことに忙殺されるよりもやるべきことがあるのでは?と痛感し、価値観がかなり変わりました。地球に生まれてきたのであれば社会に貢献したい、と思い始めた時期でもあります。
上井
そうした意識が芽生え始めたところで、2014年にイノファシの講座で社会に貢献している人たちとの出会いがあって、大きな変化につながったんですね。
中吉
まさにそうです。イノファシの場には独特の雰囲気があって、子どものようになんでもやってみようという世界観がありました。
上井
確かにあの場には異質な空気が流れていましたね。その後、中吉さんがオリィ研究所に入られてから、NTTとオリィ研究所が資本業務提携したことを知って、スポーツに関しても何か面白いことができるのではないかと思ってご連絡しました。
中吉
2020年10月ですね。
上井
当時僕がスポーツ関連のプロジェクトに注力している中でオリィ研究所とも一緒に何かできそうだと思いお声がけして、実験的な試みを始めました。NTTとオリィ研究所、NTTコミュニケーションズ シャイニングアークスが共同で行った「E Cheer Up」プログラム。コロナ禍で繋がりの希薄さを感じていた地域の障がい者施設の子どもたちと、ラグビー選手がOrihHimeを通じて新たな交流を生み出す取り組みは、「NTTリーグワンアワード2022」の社会貢献賞を受賞しました。
中吉
OriHime×スポーツ×地域の共創PJということで、今、様々なスポーツチームで、繋げる活動が拡がっています。新しいスポーツ観戦や、スポーツチームと地域が繋がるコンテンツとして可能性が拡がっています。スポーツチームの選手の方々が、OriHimeアンバサダーの様に、OriHimeで繋がる楽しさを説明してくださる機会も多く、とても嬉しいです。
上井
オリィ研究所の手掛ける世界には無限の可能性を感じています。共創のサポートにとどまらない対話の場づくりを、仕組みも含めて本格的につくっていきたいし、これからチャレンジできることに僕もワクワクしているところです。
10年後は個人が自由につながって
プロジェクトをやるようになる
上井
ここから未来の話について、お聞きしたいと思います。10年後の2032年には、どこで何をしていたいですか。
中吉
私は直感で生きているタイプなので、自分自身のプランはあまり立てないんです。でも、予測としては、もう少しみんなで地球を良くしよう、という方向に向かっているのではないでしょうか。これまでは、個人も企業もお互いにそれぞれの利益を競う社会だったと思いますが、今は、皆で連携して社会や環境を良くしていこうという共創的な動きが徐々に広がりつつあります。なので、10年後は、個人が自由につながっていろいろな共創プロジェクトを展開している姿が普通になっていくのではないかと思っています。
上井
とても共感できます。直感でそう思われる理由はなんでしょうか。
中吉
10年後までに、もし皆で協力して社会や環境をよくしていかなければ、経済や自然環境はものすごい打撃を受けて、必死に守っていかないと持続できない状況になっていると思うんです。そうなると、日本経済も滅びるし、地球も汚染され続けていってしまうのではと危機感を感じています。
上井
今はまだやらなきゃ、という義務感で動いているところもありますが、それがもっと差し迫ったものになっている可能性はありますよね。
イノベーション・ファシリテーターとしての
“ Being(ビーイング)”を体現
上井
中吉さんを見ていてすごいなと思うのは、何かやる時にポジティブなエネルギーを源にして、周りを招き入れその気にさせていくけど、押さえるべきところは押さえていく。結果として関わる人たちがみんな変容していきます。
中吉
もうワクワクすることしかしたくないんです。そして、きちんと経済もまわって、社会にも良い影響を与えるという循環にしていく。ワクワクすることを循環させて、結果として経済も自然環境も循環させていこうというイメージです。お互いに得意分野でできることを交換しながら経済を成り立たせていくことが出来たら嬉しいなと思います。この発想のきっかけは、実は、かなり前に参加したフューチャーセッションのグループワークで、ここで繋がった仲間とは、ワクワクする様々なイベントや場づくりを行っています。
上井
今でこそ、ウェルビーイングや幸福学と言われますが、その発想がセッションから生まれていたというのは衝撃的です。まさに、中吉さんはフューチャーセッションをご自身の人生にうまく循環させてますよね。
中吉
お仕事で、企業や自治体の皆様と共創プロジェクトを様々行ってますが、互いの想いや目指すビジョンを明確化して、一緒に社会実装を進めていこうと方向性が定まると、各担当者からどんどんアイデアが出て、すぐ行動できて、物凄く熱量の高いプロジェクトになることも多いです。それぞれの方々の持っている想いが着火すると、どんどん予算も集まるし企画も盛り上がって新しいものが生まれる、ということを体感しています。
イノファシでフューチャーセッションを何回もやって、想いに着火させるにはどうあるべきか、という“Being(ビーイング)”を教えてもらったというのは本当に財産だと感謝しています。とても影響を受けたし、マインドとして何年経っても自分の中にあります。
上井
イノベーション・ファシリテーターとしての Being(ビーイング)を体現している人がいる、というのは、僕たちとしてもとても嬉しいです。
中吉
フューチャーセッションズさんとお仕事をすることで、後押ししてもらっているというのもあります。上井さんは、スポーツチームや自治体、社会のキーパーソンの皆様と、想いで繋がっているので、どういうニーズがあるのかの本質のところを、しっかり把握されていらっしゃいます。いろいろな階層や遠くの組織にいる人たちが同じ想いでつながれるプラットフォームを作られていて凄いなと思っています。まさに、共創デザイナーという感じですよね。
編集後記
中吉さんとのミーティングは、いつもノリノリでどんどん共創アイデアが湧き起こります 笑。
ポジティブな波長がすごく合うのと、共創やファシリテーションの考え方・あり方が共通であるからこそだと感じています。
今、世間から注目を浴び、求められているオリィ研究所の可能性を、スポーツやツーリズムなど、ワクワク起点でさらに広げていきたいと思い、挑戦しています。次の10年に、どんな想像もしていなかったコトが生まれているのか、今からとても楽しみです!
(上井)
プロフィール
- 中吉 雅代(なかぎり まさよ)
- 株式会社オリィ研究所
事業創造部 マネージャー
2019年7月株式会社オリィ研究所に入社。それまでは、大手セキュリティメーカーにて、セキュリティコンサルタント、新規サービスのプロジェクトマネージャ、PRスペシャリストなどに従事。2018年から、ボランティアで、オリィ研究所所長のプロジェクトに参加し、2019年7月からオリィ研究所に入社。様々な企業や全国の自治体と連携した共創プロジェクトを多数展開し、分身ロボットなどのテクノロジーを活用した、新しい働き方の開拓やユニバーサルツーリズムの開発、ダイバーシティ研修、スポーツや教育分野での地域連携などに取り組む。認定イノベーションファシリテーターや認定ワークショップデザイナーの経験をもとに、想いで人を繋いで未来を語る場づくりなども、不定期で有志にて開催している。
- 上井 雄太(うわい ゆうた)
- 株式会社フューチャーセッションズ
IAF Certified™ Professional Facilitator
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所研究員
Jリーグシャレン!コアメンバー
慶應義塾大学卒業後、2013年5月に株式会社フューチャーセッションズの掲げるビジョンに共感し入社。
2013年9月には当時日本人最年少でIAF Certified Professional Facilitator(国際ファシリテーターズ協会認定プロフェッショナル・ファシリテーター)を取得。
企業、行政、ソーシャルセクターの横断を軸に、企業の新規事業創造や組織変革、行政の社会課題解決やまちづくりなどの年間80回を超えるファシリテーションを実施。
現在は、スポーツ共創ファシリテーターとして、Jリーグ社会連携プロジェクト、企業アスリートのデュアルキャリア形成を意図した「NTTコミュニケーション シャイニングアークス未来プロジェクト」、三菱地所「丸の内15丁目ノーサイドダイアログ」など「スポーツ×ビジネス×地域」をテーマにした多数の共創セッション・プロジェクトに従事。