オンラインで「DHU超ウィキ」をつくる新入生研修を実施
―― 昨年度に引き続き、オンラインで新入生研修が行なわれることになった経緯を教えてください。
田宮) 当初は群馬県伊香保温泉での旅行型研修を予定していましたが、新型コロナウイルスの感染者数が減少しないため、1月中旬には完全オンライン研修にすることを決めました。本来ならば旅行型研修を行なっていたので、仕方なくオンラインに切り替えたというところです。
―― 2020年はオンラインで行なう初めての研修で、電子書籍を製作しました。2021年の研修では「DHU超ウィキ」をつくるという課題でしたが、どのように決められたのでしょうか。
田宮) まず、コロナ禍で実際にキャンパス体験をする機会が少なく、学生同士が友達になるのが難しいので、オンライン上でお互いを知る機会をつくりたいと思いました。Scrapbox上で趣味を語るなど自己紹介するページをつくってもらうことで、一人ひとりについて深く知るきっかけとなっていました。
同時に、プロとして仕事をしている先生たちについて、学生が知る機会も設けたいと考えました。どういうキャリアパスや生き方をしてこの場にいるかということをインタビューし、「大学でこういう体験をするとこういう道に近づけるよ」「こういうネットワーキングをするといいよ」というようなことを聞くことで、先生たちについても知ることができたと思います。
また、本学は独特な大学で、科目については先生が教えますが、学生生活全般については事務局が面倒を見ます。事務局のスタッフの顔も見せることで、大学生活で何かあった時に誰に相談すればよいかを知ってもらいたかったというのもあります。
ウィキをつくることで、実際に対面しなくてもネットワーク上で「この人はこういう人」というのがわかります。Scrapbox上でキーワード検索もできるので、研修後に自分と同じ趣味を持っている人を探したり、何かやりたい時にメンバーを集めたりするのにも使えます。入学してから卒業まで使い続けられるものを目指したのですが、今も更新があり活用されている様子が窺えます。
―― 1日目に全体でセミナーを行い、2日目以降は4つのグループ(ライター、大学史編纂、非公式校歌制作、デザイン)、40のチームに分かれて活動しました。学生たちが意欲的に取り組み、アウトプットを出すために工夫された点を教えてください。
田宮) 1日目に「自分の好きの正体を知る」ことを目的に各自が作成した偏愛マップをもとに、趣味や趣向の似通った人たちが集まるようにチーム分けをしました。はじめから共通項のあるメンバーが集まっていることで、作業しやすい面もあったと思います。
加えて、毎日チームで新しい課題に取り組むプログラムにしたことで飽きなかったのではないでしょうか。事前にページづくりに必要な知識をインプットするセミナーがあって、その後にチームで話し合いながらページをつくるという設計にしました。「2035年のDHU」など未来を考える課題もあり、今ではなくこの先を考えるワクワク感もあったと思います。
橋本) ページをつくる上で、教職員40人近くにインタビューをしてもらいましたが、それがかなり良かったです。オンラインではありましたが、やはり人と話すということが良かったと感じています。
田宮) 「DHU非公式校歌」をつくるというグループがありましたが、当初は企画側の私たちも完成は難しいだろうと思っていました。それでも、チームができてから作詞、作曲、音入れまでして1曲つくってしまったのには驚きました。担当の先生の指導力も大きく、Zoomで学生を指導しながら曲をつくった経験もあって慣れていたとは思います。
全体を通して感じたことは、「学生たちはミッションを与えるとやり遂げる」、ということ。頑張る姿勢はオンラインでも対面でも変わらなくて、出来上がった時の達成感や、これができたという経験を積めたことはすごく良かったです。
―― 4日目には2035年のエンターテインメントとDHUに新設する学部について考え、ページを作成しました。どのように課題設定をされたのでしょうか。
田宮) 実は2、3日目でやりたいことは出尽くしていて、4日目の詳細な内容を決めたのは当日なんです。学生の様子を見ながら一番面白そうなことをやろうということで、課題設定をしました。大学史が過去、先生たちへのインタビューは現在に関するものなので、未来についても考えてもらいたい、と。入学した学生たちが社会人になって脂が乗り始める 32 歳ぐらい、つまり 2035 年ぐらいが考えやすいだろうということになりました。
フューチャーセッションズも「決まったことをやらなければならない」というスタンスではなかったので、直前にプログラムを変えてそれがうまく作用しました。
大学史が過去、先生たちへのインタビューは現在に関するものなので、未来についても考えてもらいたい、と。入学した学生たちが社会人になって脂が乗り始める32歳ぐらい、つまり2035年ぐらいが考えやすいだろうということになりました。
橋本) 学生たちが考える前に、私が未来シナリオについてのセミナーを行いました。シナリオプランニングという確立された手法をベースに作ったセッションだったので安定して進行することができた、という作戦の勝利でもありました。結果として、「テクノ宗教学科」や「ミラーワールド学部」といったものが学生から出てきましたが、よく知っているなと感心しましたし、妥当でありつつ尖ったものが出たのが良かったです。
オンラインならではのインタラクションを生み出す
―― オンラインで行なったことによるメリットや、逆にリアルでないと実現できないと感じられた点はありますか。
橋本) インタラクションに関しては、オンラインのほうがやりやすい面があると感じます。全員に質問を投げかけるとすぐに何百件もチャットに返ってきます。あれはリアルではなかなか難しいことでしょう。その場で思い付いたことでも全員の意見を聞いて状態を確認でき、提出物の把握も簡単です。リアルでは後ろのほうは聞いていなかったりしますが、オンラインでは全員が最前列にいるような感覚がありました。一人ひとりが「ちゃんと指示を聞かないといけない」と集中力が高まるのも良いところです。
田宮) 学生にアンケートを取ったところ、オンラインでは指示が文字情報で明示されているので、対面授業に比べて聞き逃しがなくわかりやすかった、という声もありました。
橋本) 一方で、ひとつの部屋にたくさんの人がいる熱狂はやはりリアルならではのものではないでしょうか。オンラインでも盛り上がることはできますが、盛り上がりの方向性や質が違います。最後に「やったー!」とはなりますが、皆が違う場所にいるのでその場には一人です。
田宮) オンラインでは知り合える人が同じチームやグループになった人に限られます。学生は、服装や持っているキーホルダーが同じといった、似ているところを見つけてなんとなく仲間になっていきますが、オンラインだと自分と同じ空気感を持っている人を見つけるのは難しいと思います。
企画からファシリテーションまでを請け負うコンサルタント
―― 企画段階から当日のファシリテーションまで、フューチャーセッションズが入ったことによって、プロジェクトがうまくドライブしたと感じられた点はありましたか。
橋本) それはもう、すごくあります(笑)。フューチャーセッションズがいることで、私たちはプログラムの内容作りに集中することができるんです。主要な部分の進行をお任せできることで、トラブルなど起きても止まらずに進行していけるのはありがたい。とくに1対多数のインタラクションは経験がものをいいます。フューチャーセッションズは場数を踏んでいるので、どういう状況でも適切に導いてくれます。
田宮) プログラムの設計については、教職員側で直前まで詰めていても足りない部分はあったりします。フューチャーセッションズに最終的に資料にまとめてもらうことでそれを事前に確認できますし、最後は任せておけばなんとかしてくれるという安心感もありました。
橋本) 単なるファシリテーションだけでなく、やりたいことを言うと具体化してくれる。つまりコンサルタントなんですね。最初のミーティングから入ってもらって全てのプログラムを一緒に考えていますが、例えば「自分の好きなことをシェアすることからはじめる」、というスタイルをつくったのはフューチャーセッションズです。1日目は「自分の好きの正体を知る」を目的に欲望年表と偏愛マップを作成することからはじめています。
それと、筧さんのデジタルイノベーション力。オンラインでどのようにやるかというアイデアとデジタルツールの扱いはDHUの人より慣れているかもしれません。
今後の研修で取り組んでいきたいこと
―― 2022年度に向けてチャレンジしたいことやテーマがあれば教えてください。
田宮) 2022年度は半分リアル開催で久々の旅行型研修の復活を予定しています。2泊3日の旅行の後、オンラインで研修を行なう計5日間のプログラムです。
大テーマとしては「デジタルコミュニケーションを活用して地域振興に貢献する」ということがあります。学生たちがデジタルコミュニケーションの力を使って、どうすれば地域が抱えている課題を解決できるか、どういう提案ができるかを体験する研修になります。
――地域の方々のご協力も必要になりますし、行く場所によって課題も変わってきますよね。
田宮) 本学にはクリエイター志望の学生が多いです。学生の間は好きだからつくるというのでも良いのですが、社会に出て仕事をする時にはクライアントや受け手がいます。入学当初からただ作りたいものを作るのではなく、求められるものをどう作るかという体験をして欲しいと思っています。卒業後のキャリアを考えるきっかけにもなりますし、独善的ではなく、自分が作るもの、提案するものが誰かの役に立つことを考えてもらいたいです。