プロジェクト事例 PROJECTS
【自主企画セッション】ロジックと感動:共創とイノベーションを巡る旅

共創とイノベーションにおけるロジックモデルの可能性を探索

概要

プロジェクト期間
2023年6月23日(金)16:00-18:00
課題・背景
組織や事業の創出する社会価値を可視化・最大化するには?
支援内容
対話イベント企画・ファシリテーション
体制

西山なつ美(フューチャーセッションズ)
橋本 阿姫(フューチャーセッションズ)

ストーリー

昨年10周年を迎えたフューチャーセッションズ(以下、FSS)が、共創に取り組むパートナーと一緒に、“今”話したいテーマについて対話し、共創を次の段階に進めていくための自主企画セッション。

今回のセッションでは、組織や事業の創出する社会価値の可視化・最大化を支える、&PUBLIC(アンドパブリック)の桑原憂貴さん、長友まさ美さんを特別ゲストとしてお迎えし、共創とイノベーションにおけるロジックモデルの可能性を探索しました。

【ロジックモデルは心を動かす、共創を実現する道具になり得るのだろうか?】

はじめにFSS代表の有福から、本日のセッションの目的についてお話しました。

有福)昨年10周年を迎え、これまでの10年を振り返り、さらにこれから先の10年をどういう会社にしていきたいか、ということを社内で考えました。その際に、「ロジックモデル」を使ってどういうインパクトを出していくのか、どういうアクションをしていくかについて整理しました。
ロジックモデルでは、社会的影響(アウトカム)という出したいインパクトに向けて、成果物(アウトプット)を設定します。どういうリソースを使ってアクションしていくかを左脳的な考え方で分解していくものです。ただ、やはりワクワクしたり心が動くことを掛け合わせて、一見ロジックとは相反するような「感動」をどう結び付けていくか。どうやって楽しみながらインパクトを生み出していくのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
本日のセッションの問いは、「ロジックモデルは心を動かす、共創を実現する道具になり得るのだろうか?」です。ゲストのインスピレーショントークや対話を通して、ロジックモデルの可能性を探求していきます。

【ロジックモデルで社会価値を可視化する】

本日のセッションはFSSの若手2人、西山と橋本のダブルファシリテーションで進行します。

参加者同士で自己紹介をした後は、ロジックモデルへの理解を深めるためのインスピレーショントークとして、&PUBLICの桑原さん、長友さんにお話いただきました。

まず、長友さんから、ロジックモデルのキーワードである「ソース原理」について言及がありました。

長友さん)私たちがロジックモデルを作るうえで大事にしているのが「ソース原理」です。
プロジェクトが立ち上がる時、いつの間にか頓挫する活動と、ずっと生き続ける活動には違いがあって、「ずっといきいきと生き続けるには特別な役割を担う一人=ソースがいる。」ということを提唱しているソース原理というものがあります。
どんなプロジェクトも1人の人から始まるんです。例えば、山登りに行くという時に、いつ行くか、どうやって行くかというアイデアを具体的な形にする人がいます。たとえそれが無理と言われることでも、現実にしていく人がいて、その人がソースとなります。私たちは、ロジックモデルを作成するときにはソースの願いを聴き、チームで思いを共有することからはじめています。

次に、桑原さんから&PUBLICを立ち上げた背景について、お話いただきました。

桑原さん)2013年6月、僕は東日本大震災の支援活動で陸前高田市にいて、一棟の集会所「今泉集会所 あがらっせ」を地元住民50人の方々と作りました。「あがらっせ」とは上がっていきなさい、という意味です。
津波で被害を受けた人たちが町の役場に集まって対話をしながら未来を語るのですが、終わって夜に仮設住宅に戻ると何も変わらない現実が待っている。心が折れて集まる人も少なくなる中で、何かひとつでも自分たちで作ったと言えるものが欲しい、と言う人がいました。そこで、杉の間伐材のブロックを使って集会所を作ることになったんです。

「ともにつくる」ということで、地域内外の人が繋がり、人の関係性が豊かになってできた集会所で、地元のお祭りの準備をするなど、可能性が広がるということを経験しました。
これを全国に展開していくために「KUMIKIPROJECT」という会社を作り、お店や公共空間、家具などを作る活動を10年間やってきました。

コロナ禍でワークショップができなくなった時に、人の関係が良くなった結果、暮らしはどうなっただろうか、ということを考えました。その時、ソーシャルなことや社会価値について発言していても、それがどんな意味を持つかを明確に説明できないことに気付きました。
売上のためにやるのでなければ、活動が人の暮らしをどう支えているかはっきりさせたい。そう思ったのがロジックモデルによって社会価値を可視化したいと思ったきっかけです。

やり続けていくうちに、こうやったら社会価値を可視化できるかもしれない、ということが見えてきました。
「社会価値を可視化する」という文脈で考えた時に、行政が作る政策はどうでしょうか。日本の地方自治体全体で100兆円ぐらいが使われています。より効果的に使われ、地域課題の解決が進むようになるといい。
企業、NPO、行政など、どこでも社会価値を大事にしようとしている人たちの価値を可視化したいということで取り組んでいます。

続けて、長友さんから、実際にロジックモデルをどのように使っているかということを、具体的にお話いただきました。

長友さん)&パブリックでは、社会的インパクトを追求する人や組織のためのサービスの開発、提供をしています。
そのひとつが、目指す成果と指標の策定を行う「インパクトデザイン研修」です。これは、ロジックモデルというフレームワークを一緒に作成しながら、チームでどういう未来を描きたいかを具体化し、そのための打ち手を整理していくものです。同時に、作っただけで終わりにせず、さらにより良くしていくインパクトマネジメントツールの開発をしています。

ここで、会場の皆さんがロジックモデルにどのぐらい馴染みがあるかを聞いてみると、実際に使っている方もいれば、まったく初めてという方も。

長友さん)こちらが、目指す成果と手段の設計図「ロジックモデル」です。活動を通してどんな幸せな未来の光景を見たいのか、という長期成果が右側に入ります。そこに至るまでの中期的、さらに近い未来を時間軸で整理します。
初期、中期、長期のアウトカムを出すために、何をするのかというアウトプットが並び、そのためにどれだけのリソースが必要かということを検討していきます。
その活動はどこを目指し、どんな山の登り方をするのか。そのために必要なことを一枚で表現するものです。

研修の中では、まずこの活動が誰のどんな願いからスタートしているのか、という「ソース」の物語に聴き耳を立てて、その人の源に触れ、どういう幸せな光景を見たいのかということをありありと語る時間をとっています。

最終的にはいつ、どれぐらい何をするのかというアウトプットとアウトカムの指標をセットし、その宝の地図をもって日々の活動に取り組みます。そして、振り返ってほしい成果が得られなかったら軌道修正を繰り返し、より良いものをつくっていきます。

ここでは、「ロジック」と「感動」という2つのキーワードがとても大事です。

ロジックモデルを使って整理すると、「これが最も効果的なのではないか」という仮説が立てられたり、アイデアを出した中で捨てていく、選択と集中ができるようになります。
同時に、なんとなくみんなが合意した60点のロジックモデルはドライブしませんが、ソースの人の強い願いが軸となることで、チームがワクワクとし続ける活動になります。

【Q&A】

インスピレーショントークから様々なヒントを得たところで、対話に入る前に参加者の方からいくつかの質問がありました。

Aさん)自治体の取り組みでオーナーが見えにくい場合や、企業でオーナーシップを持っている人が明確では無い場合、ソースはどうやって見つけられるのでしょうか。また、どうしたら自分がソースと言えるのかも知りたいです。

長友さん)とくに行政案件などでは、誰がソースかがわかりづらいこともあります。
そういう時には、活動を通してどんな幸せな光景を見たいか、ご自身のソースにつながるような対話をします。人生においては誰もがソースなので、願いを形にしていきたいという欲求は皆が持っているものです。
例えば、移住促進というテーマについて話す際に、携わっている人に「活動のなかでどんな時に嬉しかったですか?」という一人一人のエピソードを語ってもらうと、価値観や願いが現れます。仕事だからということではなく、この願いと水脈を合わせいくようにし、共感し合うことで、チームの関係性が豊かになっていくと感じています。

Bさん)行政や企業で初めからチームが組まれている場合、ソースと共感者の関係はどうアレンジしていけば良いのでしょうか。バランスを取れる人がいないと、現実的にはうまくいかないように感じます。

長友さん)様々なやり方がありますが、ひとつはチームの中で具体的な役割を決める、という方法があります。企画する人、アイデアを出す人、応援する人、本当に大丈夫かと石橋を叩く人。活動の中で一人一人がチームにどう貢献できるかを言葉にして、役割を整理することはあります。

桑原さん)長期ビジョンを全員が共有する場をつくるというより、そこに興味がない人がどこの部分だったら興味が持てるかを理解した状態でプロジェクトを進めると良いと思います。何にだったら熱量を持てるかを、お互いにわかった状態で進めるとストレスがなくなります。
そして、ある成果を達成する時に現状のメンバーでうまくいかない時は、外部や他のチームと連携することを考えて引き込んでいきます。ロジックモデルの使い方として、そういったケースはあります。

【ロジックモデルの可能性を探る】

ここから、新たなロジックモデルの可能性を探る、対話の時間に入っていきます。テーブルごとにグループに分かれて、次の2つの問いについて、それぞれの経験を振り返りながら話をしていきました。

問い1:過去の経験でロジックモデルがあるともっと上手くいきそうだったことは?
問い2:これから、ロジックモデルを使えそう・使いたい場面は?


様々な仕事の場面で壁に当たった時に、もっとこうすればプロジェクトがうまく進んだのでは無いか、自分がソースになるために足りなかったものは何なのだろうか、といった発言もあり、これからロジックモデルを活かしていける場面について、可能性を探っていきました。


各グループでの対話を終え、ロジックモデルの真の価値について理解を深めたところで、一人一人が今日の振り返りをしながら、「ロジックモデルを次に使いたい場面」について、言語化して付箋に書き出していきます。


参加者の皆さんが改めて個人の思いを言語化したことで、セッションをきっかけに、今後一人一人がソースになっていくという可能性が感じられました。

【ロジックモデルは軽やかに作って更新する】

最後に、桑原さんが、&パブリックを立ち上げる前のご経験として、いくつかのうまくいかなかったことを「しくじりエピソード」としてご紹介くださいました。

桑原さん)
【情熱を凍らせた一言】
複合施設での例。トップが「イベントをやりたい」と言った結果、イベント尽くしとなり、現場が疲弊しているという状況がありました。そこで、「何をやるか、やらないか」を整理するために、ロジックモデルをやろうということになりました。
複合施設ではイベントやインキュベーションをやっているので、街に起業家を増やすことが目的として設定されたのですが、ある事務の女性が一言、「起業家を増やすことに興味が持てない。」と発言して非常に悪い雰囲気になってしまったんです。

その女性が実現したい幸せな光景というのは、毎日顔を合わせるスタッフのAさんが笑顔になっていること。起業家が増える状態をつくるためにはイベントをやらないといけないけれど、そのためにまずはスタッフがいきいきと働かないといけない。そこで、「スタッフが笑顔になる」ということを初期成果として置き、結果としてその女性の意見が入ったロジックモデルとなりました。

【定量という名の悪魔】
不登校の子どもたちを支援するNPOの代表が、非常にロジカルで、常に定量で測りたいという考え方でした。そうすると、「不登校から学校に戻れた数」というように、定量で測りやすい指標が設定されます。指標がそうなると何が起こるか、というと活動がゆがみ始めるんです。
学校に戻る子ども達の数は増えたけれど、果たして子ども達は笑顔になっているだろうか。私たちは、子どもたちを学校に戻すために存在しているわけではない、ということにスタッフが気付きました。そこで、「子どもたちが笑顔になっているエピソードを集める」というような定性の話を集めるように変化しました。
すべてを定量にし、ロジックモデルで整理することだけが良いわけではありません。

【ロジカルモンスター】
ロジックモデルをつくる時には、こういう成果がここにつながる、という因果関係を考えます。中にはロジカルさばかりを求めて、因果関係のズレをひらすら指摘する人が出てきます。
大事なことは、現時点で皆さんが持っている情報と体験をもとに考える仮説にすぎないということ。因果関係もすべてがわかっているわけでは無いし、仮説にすぎないから更新しないといけないんです。

だから、年に1回の経営合宿で「社員全員でロジックモデルを書く」というように、時間とお金とパワーをかけて壮大なものをつくった挙句、機能せずに誰も見返さないというのは駄目なんです。ソースを中心に軽やかに作って、現場で見えてきた予期できない事実を踏まえて更新していきます。
最初の時点で、因果関係が論理的に破綻しているということばかりに意識がいくと、そもそもの手段や目的が変わってきてしまいます。
考えるけれど、軽やかにつくってしっかり更新していく。長期ビジョンにつながる階段が、そのチームの社会価値を発揮するノウハウとなります。
それは最初の時点では描き切れないし、完璧なものはつくり切れないということをお伝えしておきます。

最初から完璧を目指さずに、軽やかにつくって更新していく。ロジックと感動をキーワードとして、これからロジックモデルを使っていくうえでのたくさんのヒントが得られたセッションとなりました。

フューチャーセッションズは、今後も、一人ひとりが信じられるワクワクする未来の実現に向けて、このような多様なステークホルダーとの創造的な対話を重ねていきます。また次回企画にご期待ください。

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