プロジェクト事例 PROJECTS
【報告&学びの共有セッション】

サステナビリティ視察ツアーinスウェーデン

概要

プロジェクト期間
2023年7月27日(木)19:00-21:00
課題・背景
サステナビリティ先進国スウェーデンの取り組み事例を、日本でどのように活かすことができるのか?
支援内容
対話イベント企画・ファシリテーション
体制

プロデューサー・ファシリテーター:芝池 玲奈(フューチャーセッションズ)
ディレクター:坂本 悠樹(フューチャーセッションズ)

ストーリー

気候変動が世界的に深刻さを増す現在、サステナブルな取り組みの重要性は日々高まっています。世界でもいち早く「サステナビリティ」を政策として掲げ、1996年には「1世代以内に持続可能な社会(環境・健康・経済の問題を解決する社会)」を実現することを目標に定めた国が、スウェーデンです。

2023年7月、スウェーデンのサステナビリティに関し深い知見を持つ株式会社ワンプラネット・カフェ主催のスウェーデン視察ツアーに、フューチャーセッションズの芝池と坂本が参加しました。今回は帰国後に開催した、ツアーの報告と学びの共有セッションの様子をお届けします。
ゲストには、同じくツアーに参加された奇二 正彦さん(立教大学 スポーツウエルネス学部 准教授)と、柳瀨 武彦さん(P inc.代表/プランナー・コピーライター)をお招きし、それぞれの視点からスウェーデンで印象に残った学びを共有いただきました。

インスピレーショントークとして4名からのツアーに関する報告の後は、グループに分かれ、スウェーデンからの学びをどう日本で活かすことができるのかなど、サステナビリティをテーマに参加者同士で対話を行いました。

【イントロ

平日の夜に開催された今回のセッションは、集まった参加者一人ひとりの自己紹介からスタートしました。
サステナブルな建築に興味がある方、自身の仕事や暮らしにおけるサステナビリティを考えたい方、スウェーデンに留学を考えている大学生など、多様な観点からこの報告会に興味を持っていただいていることが分かります。
今回ツアーで訪れたのは、スウェーデンの中でも3番目に人口の多い都市、マルメ。2025年までにサステナブルなまちづくりの世界的リーダーになることを目指しています。マルメにおいて象徴的な「ウェスタンハーバー地区」は、重工業が盛んだった時代から生まれ変わり、現在は再生可能エネルギーの自給率100%を実現したことで有名です。

ここからは、実際にマルメを訪れた4名それぞれのインスピレーショントーク。どのような報告が聞けるのか期待が高まります。

【インスピレーショントーク①:人間以外の生物への眼差し

1人目は、立教大学で教鞭をとる奇二 正彦(きじ まさひこ)さん。人と自然の共生をテーマとした研究のほか、生物多様性をテーマとした環境教育も行っています。

「本当に楽しい5日間だった!また絶対に訪れたい!」と力強く語る奇二さんが、スウェーデンで印象に残ったのは「生物に対する眼差し」だったそうです。

街中を歩いていると目に入ってきたのは、「ビオトープ」の数々。動物や植物が生息、生育できる空間づくりが、スウェーデンでは条例として定められているそうです。在来種の植物が活き活きと生い茂る様子や、元気に飛び交うトンボ、水浴びする鳥たちなど様々な生き物の暮らしを人間の暮らしのすぐそばで見ることができます。

日本では刈られてしまいそうな人の背丈ほどもある植物もスウェーデンではそのまま。生き物たちの隠れ場所になるというメリットもある

特に奇ニさんが驚いたのが、公園に人の手によって設置された巨大な『Bee Hotel(ハチのホテル)』。幅は約25mもあります。
ハチは花粉の媒介者として植物の受粉に欠かせない存在で、生物多様性の保全に関して大きな役割を果たしています。そのハチの住処として設置されるのが『Bee Hotel』で、欧米を中心に取り組みが広がっています。

「他にも街路樹として、ハチが吸蜜に訪れるシナノキの仲間が植えられていたり、美術館や民家の軒先など、至る所に『Bee Hotel』が必ずと言っていいほどぶら下がっていました。またバス停の上にも『Bee Stop』と呼ばれるハチの住処が設置されていたり。ハチのことも意識した街のデザインを各所で感じました。人間に対する眼差しはもちろん、人間以外の生物に対する眼差しを至る所で感じることができました。それにしても、公園にこんなに巨大なハチの住処を作ってしまうなんて、なんともクレイジー!ですよね(笑)」

【インスピレーショントーク②:「最後は自分の五感で判断する」スウェーデンの考え方

プランナー/コピーライターとして企業のブランディングを行う柳瀨 武彦(やなせ たけひこ)さんは、東京から埼玉県小川町へと拠点を移し、小川町でまちの人々が集う喫茶「PEOPLE」も営んでいます。

柳瀬さんは、印象に残った一枚の写真を見せながらスウェーデンで感じたことをお話しくださいました。

それはスウェーデンの牛乳パックの裏書きの写真。そこには「見て、匂って、味わってみて」と書かれています。

「牛乳に賞味期限が記載されていますが、賞味期限は美味しく食べられる期間で、期限が過ぎると食べられなくなるわけではありません。賞味期限を過ぎても、実際に飲める、飲めないは、その人の体調やミルクのコンディション、保存方法など様々な要因が影響します。ここに書かれていることは、要は『最後は自分の五感で判断してね』ということ。このスタンスが、スウェーデンの人々の考え方や姿勢をよく象徴していると思いました。」

このパッケージの紹介を皮切りに、スウェーデンで感じた3つのことをツアー中の様々なの写真とともにお話しくださいます。

1つ目は、「使えるものは取り残さない」こと。
街のあちこちにリサイクルショップがたくさんあり、ブランドショップの中にもセカンドハンド(中古品)コーナーが設けられていたりします。また、ツアー中に訪れた80代のスウェーデン人の方のお家には、長年大切に使っている道具が多くあることが印象に残ったとのこと。まだ使えると感じたものを大切にする文化が根付いていると感じたそうです。

2つ目は、「情報に頼らず、自分で感じて考える」姿勢が根付いているということ。
マルメの街中には屋外広告はほとんど無く、店名の看板のデザインもとてもミニマル。さらには近隣の都市までの方向や距離を示す交通標識も必要最低限しかありません。時にはどちらに向かえばいいのか不便なこともあるかもしれないけれど、だからこそ人に聞いたり、調べたり、自分で考える能動的なアクションが生まれる仕組みになっているのではと柳瀬さんは語ります。

「スウェーデンの高校では、生徒たちがビジネスを考えるアントレプレナーシップ教育プログラムを取り入れているところがあり、およそ10人に1人がその授業を選択しているそうです。自分の考えをしっかり表現する教育や仕組みが根付いていることが、スウェーデンの8割超の投票率を生み出し、1000万人の人口から数々のグローバル企業を生み出しているのだと感じました。」

3つ目は、「企業には生活者を導く役割がある」ということ。
ツアー参加者の多くが印象に残ったというストックホルムのデザイン会社の方との対話の中で、「生活者の分からないことを教えて、伝えていくのが企業の役割だ」というお話しがあったそう。自社の商品やサービスを購入してもらうことに集中してしまいがちな民間企業において、自分たちの社会における役割も考えているという姿勢に気づきがあったと柳瀬さん。

「教育、というと学校のイメージがありますが、大人に向けた教育のチャンスを企業はたくさん持っており、貢献できることが沢山あることに気づきました。教育によって生活者のリテラシーが高まれば、余計な情報やモノが要らなくなり、好循環が生まれると感じました。」

【インスピレーション③:フューチャーセッションズ坂本&芝池の心に残ったこと

フューチャーセッションズの坂本が特に心に残ったと語るのは、「自律心の高さと個人の幸せを追求する姿勢」です。今回のツアーでは、現地の一般家庭の訪問の機会がありました。
ツアー中に80代の女性のお宅を訪問した時のこと。絵画や置物など自分の好きなもので満たされた居心地の良い空間に住み、SNSやタブレットなどのデジタルツールも使いこなしながら、最近入れたばかりと言って腕のタトゥーを見せてくれました。「今後はもっとたくさんの国に旅行に行きたい」と楽しそうに話す女性の様子は、高齢にも関わらず驚くほどチャレンジ精神旺盛で、行動力があり、想像していた80代の姿と全く異なっていたそう。この女性に限った話ではなく、スウェーデンの高齢者はとても活き活きと暮らしているとのことです。

また「高齢者として、健康のことや今後の生活について不安はありませんか?」との質問には、「国の制度がしっかりしているから心配していない」とのこと。子どもら家族からも特に介護などの心配の話はされないそうです。

「年齢を重ねても自律心高く、一人ひとりが個人として尊重され、幸せを追求し続けられるのは、そうした暮らしを支える社会に自ら考え、担い手として関わってきたから。だからこそ、国や制度に対しても信頼を抱けるのだろうなと思いました」
と語りました。

「スウェーデンでは、Planet(地球)、Profit(利益/経済)、そしてPeople(人)の全てを同じように大事にしていると強く感じた」と語るのは、フューチャーセッションズの芝池です。

スウェーデンの街中のゴミ箱を見ていると車輪がついているものがあり、それは生ゴミ用のゴミ箱だそうです。日本では、清掃員が走りながらゴミ袋を拾い上げて車に積み込む様子をよく見かけますが、スウェーデンでは全く異なります。ゴミ箱についた車輪を転がして移動することができ、収集はゴミ収集車についたクレーンで行われるため、清掃の方の身体への負担が少なくて済みます。
ゴミ箱についたチップでゴミの回収量を測って回収費用を決めるという定量的なアプローチでサステナビリティの実現を目指すだけでなく、現場で働く人の働きやすい環境づくりにもちゃんとテクノロジーが活用されています。

また、スーパーにはフェアトレード認証などの認証ラベルのついた商品が数多く並びます。日本では、認証ラベルのついたサステナブルな商品の価格はそれ以外と比べて高価なことがまだまだ多いイメージです。一方スウェーデンでは、サステナブルな商品を選ぶ人や組織が多いからこそ市場規模を確保することができ、それ以外の商品と値段は変わらず、商品によっては認証ラベルがついているものの方が安いことさえあるそうです。

そのほか、スウェーデンでは「ソーシャルブリッジ」という考え方が政策に反映されており、産業構造の転換によって職を失った国民に対して、新しい就業機会をつかむことができるようにサポートする仕組みが整っています。国民投票によって、とある原子力発電所がクローズした際も、そこで働いていた人々が新しい仕事につけるように、それぞれの職能にあわせて新たなスキル習得のための職業訓練が受けられるなど、企業や個人まかせではなく国のサポートがあったそうです。原子力発電所の廃炉は国としても大きな決断ですが、「人」を大切にする社会システムが基盤としてあるからこそ、国や社会に対する信頼が醸成され、新しい方向に舵を切って社会全体を変容していくことができるのかもしれません。
人気のハンバーガーショップにも植物由来の原材料を使用しており気候変動対策に貢献できるグリーンメニューが多数ある。複数の商品が展開されているグリーンメニューはとても美味しく、誰もが我慢することなく食事を楽しむことができる。

「地球環境や利益/経済を大切にしようとすると、人間が我慢しなければならないことが多いというイメージがありました。でも、スウェーデンのいたるところに、人を大事にする視点を持ちながら環境や利益を守っていく事例がたくさんあり、とても刺激を受けました」

【FIKA&DIALOGUE

4名のインスピレーショントークを聞いたあとは、スウェーデンの文化「フィーカ」を体験しながら小休憩。フィーカとは、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、一人はもちろん、家族、友人、仕事仲間たちと心を開いて会話を楽しむ時間のことで、スウェーデンでとても大切にされている文化です。

スウェーデンの味覚とコーヒーをいただきながら、初対面の参加者同士の交流も進みます。
リラックスした後は、3〜4名のグループに分かれ、インスピレーショントークを受けて各自が感じたことについて対話を行いました。

あるグループでは、「シンプルであること」がサステナビリティ実現のカギの一つになっているのではないか、という話題に。

「シンプル=わかりやすさ。例えばゴミの分別についても、大人や子ども、誰にとってもわかりやすい表記が必要ではないでしょうか。パッケージの分別が簡単であれば多くの人がやってみようという気になるし、シンプルであることは多くの人を巻き込むことにつながると思いました」

「北欧ブランドのセンスの良さにもつながっているのかもしれませんね。スウェーデンブランドの食器は、シンプルで機能性を兼ね備えたものが多いように感じます。シンプルだからこそ、洗浄が簡単だったり、保管しやすかったり。『シンプル』なデザインには人を大切にする考え方が反映されているようにも感じました」

「『シンプル=かっこいい』という価値観が国民の中に醸成されているようにも感じますが、教育も影響しているのでしょうか?」

サステナブルなデザインの話をきっかけに、話題はスウェーデンの教育に。参加者の中でも「教育」が現在のスウェーデンを形作っていると感じた人が多くいました。

「今日の話を聞いて、スウェーデンの教育について興味が湧きました」
「私も教育関連の仕事に就いているので同感です。日本の高校生が社会を学ぶ機会としては、『職場見学』『職業体験』がありますが、スウェーデンではもっと実践的に高校生が授業の中で実際にビジネスを考えている。こういう教育ができるのは、周りの大人が子どもたちのことをどう見ているかということも影響していると思います」
「ビジネスアイデアのいくつかは実現するという点も驚きですよね。子どもを必要以上に子ども扱いせず、きちんと社会の一員として扱うということが、効果的な教育に結びついていると感じました」
「環境課題や人口減少、高齢化など、日本が直面している課題にいち早く直面したスウェーデンからは学べる点がたくさんありそうですよね。課題にきちんと向き合い、一歩踏みだす勇気は教育によるものも大きいのだと思いました」

15分程度の対話でしたが、どのグループもスウェーデンの話から受けた刺激や感想について話は尽きることのない様子。最後は、各グループでの対話内容を共有して本イベントは締め括られました。

【参加者の感想

年代やライフステージ、職業も様々な方が参加していた今回のセッション。
ある参加者はスウェーデンからの学びを自身の仕事に活かせそうだと感想を語りました。

「『国民を守る制度が充実している』ということがとても心に残りました。また、スウェーデンと日本で、『人を大切にする』ということについて捉え方が違うということも発見でした。日本では、何か問題が起きないように、その人の負担にならないように用意してその人が行動できるように支えてあげるという意味合いが強いようにも感じます。スウェーデンでは、ある程度の困難が予測されても、長期的な視点でその人のためになるならばそれも良しとする視点もあるのではないでしょうか。この新しい視点はどんな仕事にも活かしていけそうだと感じました。」

また、地球環境や社会への自分たちの影響力について改めて考えた参加者もいました。
「ある程度年齢を重ね、これからの人生で新たに何か役に立つことがしたいと考え始めたタイミングで参加しました。いままで積み重ねてきた政策や教育の上に今のスウェーデンがあるのと同様、自分の世代が積み重ねてきたもので出来上がっているのが現在の日本の社会なのだと改めて身が引き締まる思いです。生物や自然環境も含めて他者を大事にする姿勢を示すことや、その姿勢自体を仕組みとして根付かせていくことなど、学びになる点がたくさんありました」

イベントの終了後も会場に残り、リラックスした様子で交流を深める参加者たちの様子がありました。フィーカには、心を開いて話すことで、円滑な関係を築く役割もあります。新たな学びはもちろん、新たなつながりも生まれた時間を過ごしました。

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