これまでにはないスタイルで新領域を開拓するための価値観の共有が必要だった
——まず、新領域開拓のためにMVVを策定した経緯について教えてください。
新村)事業環境は日々変化していて、私たちもそれに対応して持続的成長をしていかなければならない、ということを強く感じていました。私たちがメインとしているのは自動車の排ガス浄化触媒の事業ですが、今後排気ガスを出さない電気自動車が増えていくとなると現在のペースで持続的に成長していけるわけではありません。成長を続けるために新たな事業領域を見出すことは、差し迫った課題だと認識していました。
酒井)私たちは、お客様の声を聞き、それにしっかりと応えていけるところが強みだと感じているのですが、事業領域を創出するというのは新たな試みでした。だからこそ、新しいことに取り組む際の意識や価値観をまずは社内でしっかりと共有することが必要なのではないかと考えていました。
新村)正直なところ、暗中模索の状態でした。社内のマインドを新たに変え、それを共有していくには、フランクに話をして、意見交換ができる場を作る必要があると考えました。そこで様々な場づくりで実績のある御社に、是非お願いしようとお声がけしました。
——セッションを始める当初、どのような課題がありましたか。
酒井)今回のセッションは、経営企画部や技術企画部のほか、直接お客様と関わる営業のメンバーやそのリーダーにも参加してもらったのですが、皆が発言してくれるかどうかは不安でした。このような場に慣れていなかったので、いきなりセッションが始まって、皆がシーンとなってしまわないかとか、「忙しいし、セッションに参加している時間はないよ!」などという空気になってしまうのではないかと気にしていましたね。
新村)始まる前に、参加者から「『セッション』って一体何をやるの?」という声がいくつもありました。
吉村)そうですね。皆でマインドを変えなければいけないシーンだけど、皆が乗り気になってくれるかどうか気になりました。正直、最初は皆、意味があるのだろうか?と半信半疑で参加していたかもしれません。
「議論」ではない「対話」によって場の空気が和らいだ
——最初にご相談いただいたときは、確かに「どうメンバーを巻き込むか」「皆が納得して取り組んでくれるか」をかなりご心配されていましたね。その状況はどのように乗り越えられたのでしょうか。
新村)とにかく、セッションの内容や目的についてきちんと説明をして、「未来のために、まずは新しいことに挑戦してみませんか」とお願いしながら、巻き込んでいくしかなかったですね。
酒井)最初のセッションを行って、実際に参加したメンバーの空気がかなり変わったと思います。半信半疑になるような内容ではないということが分かってもらえたのではと思います。
初回のセッションのアイスブレイクで、有福さんが「対話」という言葉を出してくださいましたよね。その瞬間に空気が緩んだ感じがしました。社内のミーティングで何かを決めなくてはならない場合、議論をして相手を「論破」するという流れになることがあります。けれど、このセッションは議論ではなく「対話」だとお話しいただいたことで、お互いの意見を尊重して話をする場なんだということをメンバーが実感できたのかなと思います。
——セッションの中で、印象に残っていることについて教えてください。
新村)2回目のセッションで、各チームでこれから実現していきたいことについて、一枚の記事にまとめて発表するというワークがありましたよね。私は、今の事業内容から考えた現実的な内容のものがポンポン出てくるイメージでいたんです。ですが実際には、現状の枠ではない「夢を描く」ような発想のものが多くて。
酒井)ペットや宇宙に関する話とか、面白かったですね。
吉村)はい。話がどんどん膨らんでいって、時間内に終わるのだろうかとヒヤヒヤするほどでした(笑)。
新村)普段の会議では、ここまで発想を広げていくということは、いろいろな制約があって難しいです。セッションのおかげで、自由に発想することを面白がる姿勢が私たちの会社にもあったんだ、とハッと気づきました。この姿勢を上手く伸ばしていくことができれば、新領域開拓ももっと柔軟に取り組めるのかなと予感しました。普段、一緒に仕事をするだけでは気づけなかった一面です。
酒井)私も、セッションの最後に「対話のプロセスそのものが楽しかった」という言葉が参加したメンバーから自然と出てきたことは嬉しかったです。
新村)1つの発想からさらに新しい発想につなげていくことや、発想はどこまで広げても良いんだというマインドになれたことは、とても良い機会でした。
納得感を持って描くことができた「リジェネラティブ」な未来
———実際にセッションへ参加した方から反響はありましたか
酒井)普段話ができない別の部署の人と一緒に、新しいトピックについて話せたことがよかった、というフィードバックをかなりいただきました。その後もセッションに参加したメンバー同士が話せるような関係性ができたようで、良かったです。
吉村)私自身も感じたのですが、メンバー皆、自分が働くNECCの未来にかなり期待を持って仕事をしているということが対話を通じて分かりました。参加したメンバー同士も、前向きに頑張りたいというお互いの気持ちが伝わり、さらにポジティブになれたところもあったのではないかと思います。
——想いを持った人たちが身近にいると知るだけで、頑張ろうと思えますよね。大事なことだと思います。
セッションを通じて、新領域開拓におけるミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を策定しました。社内外の反応はどうでしたか。
新村)対話をしながら作り上げたので、皆の納得感があるものになったと思います。つながりのある企業の方にも新領域開拓の方向性としてMVVについてプレゼンをしたのですが、「NECCらしいね」と言っていただけました。自分たちでは気づきませんでしたが、思った以上にNECCの色が出ているのは、対話のおかげかなと思います。
酒井)新領域開拓にあたって、「まず価値観を明確にして取り組む事例は少ないのでとても良いね」、というフィードバックは複数いただいています。このMVVを実際に行動につなげて根付かせていきたいと思います。
——策定したビジョンは「人々の悦びと環境調和のトレードオンを実現しリジェネラティブな社会を目指す」でした。
「リジェネラティブ」は当時今よりも馴染みがない言葉で、「サステナブル」という言葉の意味に近かったので、どちらの言葉が相応しいか、最後まで検討していましたね。どのような想いでこの言葉を選ばれたのでしょうか。
新村)サステナブルはもちろん大切な考え方です。今までも私たちの事業では、地球への負荷を減らし、環境を「維持」できるように取り組んできました。ただ、これから次のステージを見据えて成長していこうと思った時に、維持ではなくて、自分たちの豊かさを追求しながら、地球環境をより良くすることを目指さなくてはいけない。だから、持続ではなく「再生して、より良くしていく」というニュアンスの強い「リジェネラティブ」という言葉の方が相応しいのでは、という考えに至りました。私自身、この言葉には強い思い入れがあります。
酒井)新村くんの熱意に私もおされました。確かに、サステナブルについては現在も真剣に取り組んでいるので、新領域では、さらにその先まで見据えた未来を設定しておきたかったという思いがありました。
——フューチャーセッションズと協働した感想を教えてください。
新村)様々な立場のメンバーがフラットに話せる場を作る経験がなく、どのように取り組めばいいのか分からなかったので、お力添えをいただけたことは本当にありがたかったです。
新領域について考えるということは、少なからず現状を変えなければいけないということなので、セッションは難航するだろうと思っていました。けれど、場を上手くほぐしていただき、セッションはスムーズに進みました。場づくりのお手本を示してもらい、対話を取り入れたファシリテーションの重要性を私たちが理解できたので、本当に価値がありました。
酒井)プロジェクトを進行することだけに注力せず、参加者の気持ちも大切にファシリテーションしてくださったと思います。セッションの進行次第では自分の意見が否定されたように感じる人も出てくるかもしれないと懸念していました。でも、対話型で一人ひとりの意見を拾いながら、皆が腹落ちするビジョンを描くことができたのは、フューチャーセッションズさんのおかげです。
吉村)セッションの進め方を細かく指示されるのかと思っていたのですが、そういったところが全くなくて。柔らかいファシリテーションで、セッションの主体は参加者である皆さんだということをいつも伝えてくださったので、話しやすい環境ができたと思います。
セッションで策定したMVVで未来を共創するパートナーを見出したい
——これから、社内の対話をもっと広げたいというお話しもいただきましたね。
新村)私たちも気をつけていますが、会議の場で「自分は発言していいのだろうか」と自問自答している人はまだまだいるのではと思っています。とても良い意見を持っているのに、その価値を発揮できずに終わるのはとてももったいない。対話の場で、自分の発言が許容されていく経験があれば、もっと発言していいんだ、というマインドになれると思います。
吉村)自分で方針を決めて行動するというマインドを、いつの間にか忘れていたなと思うこともありました。自分も含め若い世代にもどんどん変わってほしい部分です。
——最後に、これから取り組みたいことについて教えてください。
新村)私たちが扱う「触媒」という商品は、自動車などの製品と組み合わせて初めて価値を発揮します。そのため商品の価値を自分たちだけで具現化してきた経験がありません。新領域では、自分たちの強みも活かしながら、自ら商品価値を具現化する力をつけていくことも必要です。
そのためには、共創するパートナーが必須なので、シナジーを生むパートナーの方々との関係を大切にし続けたいと思います。
酒井)今回のプロジェクトの成果であるMVVを用いて、ステークホルダーと共感できると、コラボレーションの過程に於いて物事が前に転がる方向に動いていきやすいと思います。そのような意味でも重要な役割を果たしてくれると期待しています。
——様々な企業の方と対話をして、共創の可能性を探るというのも良いと思います。
新村)はい。社外の色々なメンバーが参加したらとても面白くなりそうな気がします。ビジョンの実現に向けて、ぜひ社内外の方々とセッションを通じて共創できればと考えています。