行政主体ではなく、市民主体のまちづくりをスタンダードにしたいと始まった
——とやま未来共創会議に関わることになったきっかけについて教えてください。
岡村さん)未来共創会議が始まって4年が経ちました。私自身、富山市役所に就職したのが未来共創会議の2年目だったので、関わるようになって今年で3年目です。とはいえ、毎年同じことはしていなくて、改善を続けながら参加者のみなさんと未来共創会議のプロセスそのものもアップデートを続けているところです。
舛岡さん)私は80歳を過ぎてから、郊外から街中に移住してきました。富山市は現在、公共交通機関を軸に、拠点集中型のコンパクトなまちづくりを目指していますが、私も「コンパクトシティ」のメリットを最大限享受している一人です。引っ越す前は「コンパクトシティ」と聞いても他人ごとだと思っていたのですが、自分のような年配の者にも関わりのあることだと感じることができました。そこから市内の高齢者が、もっとまちづくりに関わることができたらいいなという思いが湧いてきて、未来共創会議のことを知って興味を持って参加しました。プログラムに関わるのは今年で2年目です。
高橋さん)私は富山市の大学に通っています。大学に入ってからまちづくりに関心を抱き、それに関わることができる未来共創会議のことを知って昨年度から参加しています。
石黒さん)私は未来共創会議の初年度から参加しているので、今年で関わって4年が経ちます。出身は富山市なのですが、初年度の少し前に8年ぶりに富山に戻ってきました。新たなコミュニティの中に入り、つながりをつくれたらいいなと思ったのが参加のきっかけです。あとは、せっかくならば自分の住む場所を少しでも良くしたいという思いもありました。
——皆さんさまざまな想いがおありだったのですね。2020年に「とやま未来共創会議」をスタートさせた背景には、富山市としてはどのような課題感があったのでしょうか?
岡村さん)人口が減り、市の予算も限られ、市役所のマンパワーも不足しがちな状況下、地域の課題や市民の困りごとの解決を行政だけで担える時代ではなくなっているという危機意識がありました。富山市だけではなく、日本の地方都市は同じ思いを抱えていると思います。行政しかできないことがある反面、民間の事業者や市民が主体になってできることもたくさんあります。まちづくりにおいても主体になって行動できる市民の方を増やしたいと考えていました。
地域の課題が多様化、複雑化している中で、解決につなげるためには、誰か特定の人だけがまちづくりをするのではなく、市民の方を巻き込んで、もしくは市民の方が主体になってまちづくりをする必要があるという考えのもと、産官学民の垣根を越えて人々が対話する「とやま未来共創会議」の場が立ち上がりました。
——年代や立場に関わらず多様な市民を招き入れて未来共創会議を運営したいということで、フューチャーセッションズにご依頼をいただきましたね。私たちはファシリテーターとして共創の場に関わることが多いのですが、当初から富山市の職員がファシリテーターとなって市民の方と自ら交わるというスタイルで取り組まれているのはとても特徴的だと思います。私たちは場づくりについて後方から支援を続けています。
岡村さん)やはり最初からうまくいっていたというわけではなくて。市民の方が主体的に動くという機会が少なかったので、戸惑うことも多くありました。ですが、毎年参加者が入れ替わりながら初年度メンバーの想いをつなぐことで、未来共創会議の取り組みを応援したいという方が増えてきていると感じています。
初年度の未来共創会議からは、5つのビジョンが生まれた
共創のノウハウだけでなく、場の熱量をつなぐ「サポーター制度」
——特徴といえば、「サポーター制度」も未来共創会議の大きな特徴の一つですよね。「参加者」として未来共創会議に1年間参加した市民の方が、今度は「サポーター」として運営を支えるという取り組みが、持続可能な共創の場づくりにつながっていると感じています。今日参加してくださっている皆さんは、参加者・サポーターの双方の立場で未来共創会議に関わった経験がおありですが、立場によって関わり方に違いはありますか?
石黒さん)参加者としては、自分の課題意識に関して、共感できる仲間を見つけることが非常に重要なのだと感じています。同じ課題に対しても、他の人は全く違う解決方法を考えていることがよくあります。多様な仲間が集まり、課題解決に向けたアプローチを持ち寄ることで、より効果的で皆が納得する解決方法が導き出されることを実感しています。
舛岡さん)私は、今年はサポーターとして参加しているのですが、未来共創会議が始まると、参加者と一緒にエキサイトしてしまって。反省しています(笑)。でも、若い人と関わるのは本当に面白くてエキサイティングですから、私と同年代の方にもどんどん参加して欲しいです。おすすめですよ!
高橋さん)参加者として取り組んでいると、どうしたらいいか分からないという瞬間が必ずあります。そうなった時に助け舟を出してくれるサポーターの方々のおかげで何度も救われました。それだけではなくて、舛岡さんのように、サポーターの方が一緒にエキサイトしてくれることで、前年度の熱が伝わってくるんです。過去の未来共創会議を知っている方がサポーターとして関わることで、過去の未来共創会議のDNAを引き継ぐ役割にもなっていると思います。
石黒さん)初年度は手探り状態だったこともあり、参加者の緊張感もかなりありましたが、2年目からはサポーターが入ることで少しずつリラックスした空気にもなってきました。サポーターがいるから、全くのゼロベースでのスタートではないと感じられるところが、参加者の心強さにもつながっていると思います。
高橋さん)私もリラックスした、未来共創会議の雰囲気がとても好きです!アットホームな感じが良いですね。
石黒さん)雰囲気づくりはもちろん、私自身サポーターになってから、参加者の方々が今どんなことに困っているのか、常にアンテナを立てて行動できるように心がけています。
岡村さん)サポーターの方々は、「助ける」ことはあっても、自ら正解を教えて「導く」ことはありません。人知れず背中を押したり、本当に困った時に解決するヒントを与えてくれる。あくまでも参加者が主役なんだという意識を持ってサポートしていただいているから、参加者の方が主体的に考え、行動していくことができるのだと思います。サポーターの方々の存在は、私にとっても本当に心強いです。
仲間をつくり、「自分ごと」を「みんなごと」にスケールアップすると、より良い課題解決につながる
——とやま未来共創会議に関わり続ける中で、ご自身や周囲での変化を感じていますか?
石黒さん)課題への取り組み方が変わりました。1年目に未来共創会議に参加した時は、「とにかく自分が頑張って企画を実行しなくては!」と思っていました。自分がやりたいことを実現するためには、自分だけが頑張るべきだ、と決めつけていました。
ですが、4年間続けてきて分かってきたことは、自分が課題だと感じていることは、他の人も同じ課題意識を持っていることが多いということ。共感する仲間を見つけて、手を取り合えば、より効果的かつ効率的に解決へ向かうことができます。「自分ごと」を「みんなごと」にスケールアップして課題に取り組んだ時の力の大きさを実感しています。
前年度の企画で立ち上がった「丸ちゃん家」はまさにその例ですね。
高橋さん)「丸ちゃん家」というのは、集いたい時に集えるコミュニティスペースのようなもの。好きな時に行って、居合わせたメンバーと話したり、くつろげる憩いの場です。
2022年度の未来共創会議をきっかけに立ち上がったコミュニティ「丸ちゃん家」の活動の様子
石黒さん)私も地元の人が好きな時に気軽に集まれる場所があったらいいな、ゆるくつながることのできるコミュニティがあったらいいな、と思っていました。そんなことを考えていたら、とある参加者が「丸ちゃん家」の企画を提案してくれて。すると、同じ想いを持った人がそれに賛同していって、実際のコミュニティとして出来上がったということがとても印象に残っています。自分一人でやるのではなく、同じ悩みや課題意識を持つ人たちが集まって、一つの解決策を実行に移すことができるところが、未来共創会議で活動していてとても楽しいと感じる部分です。
「丸ちゃん家」では、ごみ拾いや夏祭りの活動を通して地域のつながりを深めている
舛岡さん)私は、関わるコミュニティがとにかく広がったと感じています。高橋さんをはじめ大学生くらいの若い世代の方々が、富山を心から好きで、地域をより良くしたいという想いでさまざまな企画を考えてくださっていて、富山に住んでいて本当に良かったと思います。若い方々が、私の年代にも目を向けて、一緒に取り組んでくださるおかげで多くのつながりができました。一緒に色々なところに出かける機会もあり、今では活動へ参加する回数をセーブしなくてはならないぐらい(笑)。このことには本当に感謝しています。
岡村さん)舛岡さん、超ご多忙ですよね。
高橋さん)昨年の未来共創会議で、舛岡さんのチームには、私より年下の高校生もいましたね。
舛岡さん)はい。今でも友達で、仲良くしている高校生です!
高橋さん)舛岡さんの隣に高校生がいて、一緒に一つの課題に取り組んでいるって、すごい場所ですよね。私も大学に来るまでは富山に縁もゆかりもありませんでした。そういう人間が今、富山市の人たちと一緒に良いまちづくりをしようと、一緒に活動できているということは本当にすごいし、ありがたいなと思っています。
岡村さん)未来共創会議も4年目を迎え、関わる人たちの層がどんどん厚くなり、共創の輪が広がっていると感じています。過去に参加者として関わった方が、今度はサポーターとして、活動に伴走したり、対話のファシリテーターとして関わっていただいたりしています。たくさんの人を招き入れ、関係者を増やしていくことで、地域の共創の場を自走させたいという思いもあるので、その目標に向かい皆さんと一緒に共創している最中です。
——地域の課題解決において「仲間を増やす」ということは重要な意味を担っていそうですね。
岡村さん)まちづくりをする際に、強いリーダーや声を大にして意見を言える人の存在はもちろん大事なのですが、本当に皆がやりたいことを実行に移すことを考えた際には、一つの企画に共感し、支えてくれる圧倒的多数のフォロワーを育てていくことがとても必要なのではないかと、プログラムを続けていく中で気づき始めました。未来共創会議を続ける中で、自然と共創の取り組みに賛同して、応援してくれるフォロワーが増えていることは予想外の嬉しい出来事です。
「まちづくり」=「人を育てる」こと。未来共創会議の経験者が他の場でも活躍している
——今回、フューチャーセッションズがご一緒させていただいて、お役に立てた点はあったでしょうか。
岡村さん)はい。当初から未来共創会議のファシリテーションは富山市の職員と参加者・サポーターで行うと決めて取り組んできたのですが、フューチャーセッションズの皆さんにノウハウやアドバイスを惜しみなく出していただきました。「私たちがどうしたいか」ということを第一に尊重して支援してくださっていることが、非常にありがたいです。
高橋さん)私は大学生ですが、社会人の方々から「ファシリテーションが上手だね」と言っていただける機会が増えたのも、フューチャーセッションズのおかげです。参加した当初は対話という言葉も知らなかったのですが、どうしたら活発な対話を生み出せるのか、参加者が楽しくなる手法も用いながらノウハウを教えてくださって、自身も成長できたと感じています。
岡村さん)未来共創会議でファシリテーションの経験を積んだ方が、スマートシティ推進ビジョンの策定のためのワークショップなど、市の事業でも活躍してくださっています。市の職員がファシリテーターになると、質問や要望を伝える場になって、対話の趣旨から外れてしまう場合があるので、ファシリテーションスキルのある市民の方が増えていることは本当に嬉しいです。未来共創会議の経験が他の場でも活かされて、まちづくりにつながっていることは非常に良いことだと感じています。
高橋さん)まちづくりにとって、人を育てるということがとても大切なのだということを私も実感しています。地域において、建物などのハードを整備することも大切だけれど、それ以上に、そのフィールドで行動し活躍する人材がとても重要だということを学びました。本当に感謝しています。
——こちらこそ、ありがとうございます!最後に、皆さんが今後挑戦したいことについて教えてください。
舛岡さん)未来共創会議への参加を通じて、本当にたくさんの方が、富山をより良くしたいという想いをもって活動されていることが分かりました。そのような人同士が、未来共創会議以外の場でもますます上手くつながると良いなと思います。そして、私のように80歳を過ぎた世代のことも、地域の課題へ取り組む仲間として引き続き目を向けて、巻き込んでいただけたらいいなと思います。参加を通じて、常に挑戦をして、好奇心を持ち続けていられることに感謝しています。
石黒さん)想いを持っていても、なかなかアウトプットできない人がたくさんいると思います。そういう方には是非とやま未来共創会議に参加していただきたいです。仲間をつくり、想いを具現化するノウハウをフューチャーセッションズの方々はたくさんお持ちなので、これからも一緒に取り組んで行けたらと思っています。
岡村さん)未来共創会議で生まれた活動や企画が続いていくことはもちろん、過去の参加者のつながりから、「◯年前、あの企画にチャレンジしたけどもう一度やってみようかな」とか、「実はあのチームと一緒に何かできそうだなと思っていたけど、あの時はできなかったから、もう一度一緒に新しいことをやってみようかな」などと、新しい化学反応が生まれるような後押しをしたいですね。
また、市民の方が主体になって実現したいことがある時に、それを後押ししてくれるデジタルテクノロジーなど、スキルを持っていて、かつ“ちょっといいまち”をつくりたいという思いを持った方との出会いの場を提供するなど、活動企画の実現を応援できるようなサポート体制をさらに強化していきたいと思っています。