プロジェクト事例 PROJECTS
CLOMA「未来デザインチーム ジャパンエッセンス抽出セッション」

海洋プラごみ問題を解決するために、日本の価値観を基盤とした2050年の未来理想像を描く

概要

プロジェクト期間
2023年4月1日~2023年6月30日
課題・背景
海洋プラごみ問題を解決するために、多様なステークホルダーと連携するCLOMAのビジョンを描く
支援内容
CLOMA が描くビジョン共創セッションの設計・ファシリテーション
体制

プロデューサー:有福 英幸(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:西山 なつ美(フューチャーセッションズ)

海洋プラごみの問題は、日本国内でも世界的な課題として多くの人が認識するようになりました。にも関わらず、世界的に毎年800万トンの海洋ごみが新たに流出しており、2050年にはプラごみの量が海洋の魚の数を上回るという見方もあります。

この深刻な世界的な課題解決のため、一般消費者向け商品のサプライチェーンを担う企業が中心となり結成されたのが、クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)です。2024年現在は500を超える企業や団体が参加しています。

2023年、CLOMA会員の13名によるワーキンググループ「未来デザインチーム」が立ち上がりました。海洋プラごみ排出ゼロの未来を目指すため、2050年の未来理想像を描くことを目的に議論を重ねる中で、日本で資源循環を定着させていくには、「日本の伝統や文化にもとづいた日本らしい行動様式=ジャパンエッセンス」を知り、取り入れていくことが大切なのではないかという意見があがりました。ところが、そのジャパンエッセンスが具体的に何であるのか、見えてこず悩んでいたといいます。

そこで、CLOMAが理想とする2050年の未来像をより明確にするための対話「ジャパンエッセンス抽出セッション」のサポートについてフューチャーセッションズにお声がけいただきました。

セッションを通じての感想や気づき、今後のCLOMAの活動の展開について、未来デザインチームの事務局を担当したお二人にお話しを伺いました。


渡辺 真司さん(花王株式会社):
2011年花王株式会社に入社。入社以来、容器包装の研究開発に携わる。生活者へ便利で使いやすく、また地球環境に配慮した容器包装の研究開発に励んでいる。2023年には、CLOMA未来デザインチームの事務局を担当。


小中 洋輔さん(三井住友信託銀行):

総合電機メーカーに入社後、家電向け素材開発、東南アジア向け新規事業開発を担当。
2022年に三井住友信託銀行に入社し技術専門家集団であるTechnology Based Financeチームに所属。
日本産業のサーキュラーエコノミー移行に向け、企業、自治体、大学と連携したプロジェクトの組成・推進や、技術の目利き力を活かしたスタートアップ投資、各種ファイナンス組成業務に従事。2023年、CLOMA未来デザインチームに参画。


有福 英幸(Future Sessions)

 

西山 なつ美(Future Sessions)

ストーリー

海洋プラごみゼロへ向けて、2050年の未来理想像を描き、アクションを加速させる

有福)CLOMAのサポートに関わり始めてから、かれこれ1年が経ちました。今日は改めて当時のことを振り返りつつ、CLOMAの興味深い活動の発信のお手伝いができればと考えています。
まずは、改めてCLOMAはどのような組織なのか、概要について教えていただけますでしょうか。

渡辺さん)CLOMAは海洋プラスチックごみの問題を解決すべく集まった企業のアライアンスです。2019年から活動していて、2024年現在、500を超える企業が参加し、業種を超えた幅広い関係者の連携を強めイノベーションを加速しています。

海洋プラごみ問題は生態系を含めた海洋環境悪化をはじめとした様々な問題を引き起こしています。この問題を解決するためには、流出してしまったごみを回収することと、これ以上プラごみを排出させない取り組みが必要です。CLOMAは後者の取り組みについて特に注力し、官民連携でプラの循環利用を徹底することで、海洋に流出するプラごみのゼロ化を目指しています。同時に、海洋プラごみ問題のソリューションのジャパンモデルを世界に発信することを目標にしています。

有福)活動の中で、2023年にCLOMAで立ち上がった「未来デザインチーム」の支援についてお声がけをいただきました。

小中さん)それまでCLOMAは、情報発信や技術課題の検討など幅広く活動して成果を出してきました。一方で、「2050年までに海洋プラごみ流出ゼロ」というCLOMAの目標に向けてさらに活動を加速するためには、どうアクションをとるべきか課題も感じていました。議論を重ねる中で、「CLOMAが理想とする2050年の未来像を描き、そこからバックキャスティングで取り組むべきことを明らかにする必要がある」という考えに至りました。その未来像を描くために結成されたのが、13名から成る「未来デザインチーム」です。

有福)フューチャーセッションズにお声がけいただいたのは、未来デザインチームで議論を重ねていた最中のことでしたね。未来像を考えるにあたり最も重要な論点は何だったのでしょうか?

小中さん)ずばり、「『ジャパンエッセンス』とは何か」という点でした。ジャパンエッセンスとは、日本の伝統や文化を反映した価値観や行動様式のことを指します。

有福)資源循環のあり方について2050年の未来像を描くにあたり、日本の伝統や文化を反映した価値観や行動様式が必要だと考えたのはなぜですか?

小中さん)現在の世界の資源循環のあり方を考えると、ヨーロッパは法規制を中心に資源循環の取り組みが推進され、企業の取り組みも変化しています。一方、アメリカでは有名な先進企業が資源循環に積極的に取り組む姿勢を見せることにより、そのほかのサプライヤーが続いて取り組みが広がっているように見受けられます。
「日本で資源循環型社会を実現するにあたり、フィットするのはどのようなやり方なのだろう」と未来デザインチームで考えたときに、ヨーロッパ式でもアメリカ式でもなく、日本ならではの価値観や行動様式(=ジャパンエッセンス)を反映したやり方がふさわしいという話になりました。ところが、そのジャパンエッセンスが具体的に何を指すのか、自分たちで考えていてもうまくまとまらなかったので、外部の力を借りて、しっかりと洗い出していこうということになりました。

渡辺さん)2050年の理想的な生活を考えたときに、生活者が無理なく、苦もなく生活している様子を私たちはイメージしていました。そこにはやはり、今までの私たちの生活の中に定着している「ジャパンエッセンス」がなければ持続可能ではないということでチーム内の意見が一致していました。
それから、日本ならではの資源循環のあり方にたどり着けたら、そっくりそのまま当てはまらないとしても、一部だけでも海外の方の役に立てる部分があるかもしれないという期待もありました。

持続可能な資源循環型社会の実現に必要な「ジャパンエッセンス」とは何か、セッションを実施

有福)最初にご相談をいただいて、ジャパンエッセンスという考え方について説明いただいた時に、「とても面白い考え方だ!」と直感的に思い、セッション自体も楽しみでした。ジャパンエッセンスを基盤とした2050年の未来理想像を描くためのセッションの準備からご一緒しました。
セッションを開催した感想を聞かせてください。

未来デザインチームセッションの様子

渡辺さん)予想以上にメンバーの意見が溢れてきて、議論が膠着するシーンがあり、途中は本当にハラハラしました。事前に用意したセッションのプランがあったのですが、フューチャーセッションズが臨機応変に、即興でプランを見直して下さったので、最後はみんな「考えを出し切った!」とスッキリした様子でセッションを終えることができました。

有福)たしかに、皆さん想いがあるからこそ「伝えたい!」「曲げられない!」という部分もありましたね。改めてお話しを聞いていると目指している方向がずれているわけではなくて、細かな表現の違いで相入れない意見のように見えてしまう部分があったのだと思います。当初、セッションの内容はジャパンエッセンスについてアイデアを出すことを計画していましたが、いざセッションが始まって、そもそもジャパンエッセンスとは何か、みんなの認識が一致していないことに気づいて。そこで急遽変更して、ジャパンエッセンスの定義から考えることにしたんです。

西山)参加者全員が変更に一瞬戸惑ったと思いますが、ジャパンエッセンスの定義について共通認識を持つため、一番大切な部分に対話の時間を使えたと感じています。

小中さん)そうですね。そこの対話がなかったら、メンバー全員が共通認識を持てなかったと思います。この過程をを経て、最終的に言語化された未来理想像には、全員が本当に腹落ちしていました。その後、セッションを通じて言語化した未来理想像を絵で表現したのですが、セッションのおかげで共通認識を持てたために、理想像を非言語領域へ移行するプロセスもスムーズにいったと感じています。これは本当に素晴らしい成果でした。

渡辺さん)消費財メーカー、リサイクル事業者、IT企業、シンクタンクなどチームのメンバーの立場が多様だったこともあり、「こんなにも意見が違うものなのか!」と改めて気づかされましたね。一方で、たとえ意見が合わないように見えたとしても、それぞれの意見をしっかりと深掘りしていくと、共通項があり双方が腹落ちできる方向に導くことができるのだと学びました。

例えば、「海外から技術を導入する」ことがジャパンエッセンスにあたるかどうか意見が二つに分かれました。対話を重ねる中で、「これは新しい価値観であり、今後日本が身につけていく価値観じゃないか。これまでも日本は、新しいものを受けいれ柔軟に対応してきた、それはジャパンエッセンスではないか」という意見が出て。ジャパンエッセンスって既に存在しているものだけかと思っていたのですが、これまでの伝統を反映してこれから身につけていく新しい価値観も含まれるのだという内容に、私含め全員が納得しました。

有福)確かにそれは大きな発見でしたね。ジャパンエッセンスについては、①昔からの行動様式で今後も残すべきもの、②日本にはすでにあり今後世界共通となるもの、③今後増えていく新しい価値観の3種類に整理することができました。

セッションを通じてジャパンエッセンスは上記のように整理された

西山)個人的には、当日のセッションはもちろん、事前にチームメンバー以外のCLOMAの会員企業のみなさんに「2050年の未来社会におけるジャパンエッセンス」についてのアンケートを実施したことがとても良かったと思っています。

渡辺さん)そうですね、120件を超える回答がありましたね。本当に大変だったと思いますが、西山さんが短期間でまとめてくださらなかったらもっと対話が難航していたと思います。

有福)時間がなくて、裏で半泣きしながらまとめていましたよ(笑)。内容としては、面白い意見がたくさんありましたね。

西山)短い期間にも関わらず、みなさん長文で答えて下さって、チームメンバー以外の方々の熱量も感じることができました。事前アンケートの結果をふまえたセッションができたからこそ、ジャパンエッセンスの解像度も上がっていました。セッションに参加できない方とも一緒に未来像をつくりあげる感覚もありました。

セッションを終え、2050年の未来理想像が改めて言語化された

小中さん)CLOMAの中では、ジャパンエッセンスについて、参加メンバーの中だけでアイデアを捻り出そうとして、上手くいかずに困っていました。有福さん、西山さんから事前にアンケートをとることをご提案いただいたことで、当日の対話の内容が広がったと感じています。支援いただくことで、私たちだけでは考えつかなかった方法や観点でセッションを進めることができ、感謝しています。
あとは、多様な立場のメンバーが集まっているからこそ、意見がうまくまとまらない時に、フューチャーセッションズの数々のファシリテーション経験から、どうセッションを収束させるのか瞬時に判断して、自然に軌道修正してくださったと感じています。仮に自分たちだけだったらこうはいきませんでした!

渡辺さん)本当にそうですね。まずは各自の想いを話すところからスタートしましたが、その多様な意見の中から共通項となる最適な言葉や、それにつながる次のアクションを導いていただけたことは本当に助かりましたし、感動しました。

有福)ご一緒してきた仲間としても、そのようなお言葉をいただけて嬉しく思います。今後、CLOMAの活動継続に活かしていけそうな、今回のセッションに関しての反省点などはありましたでしょうか?

渡辺さん)これは私たちのスケジュールのせいでもあるのですが。今回のセッションは1日だけだったので、もう少し長く時間を設けることができたらもっと面白いものができたかなと感じています。

有福)確かにそうですね。今回はジャパンエッセンスを深掘りして2050年のライフスタイルを描くことを中心に対話を行いましたが、具体的な社会システムなどについても時間をかけられたらより解像度の高い未来像が描けたかもしれません。

渡辺さん)セッションの後、自主的に社会システムについてメンバーで対話をしながら、未来像を絵にする作業を行いました。フューチャーセッションズと一緒にその作業を行えたら、よりブラッシュアップされたものになっているかもしれないですね。

描き出した未来像(=CLOMA CITY)の具現化に向け、新たなチームでアクションを開始

有福)今回のセッションを終えて、ジャパンエッセンス自体、実は多様な場面に応用可能な概念なのではないかと個人的に思っています。
例えば、CO2の排出を減らすために私たちがやらなければいけないことって、ある程度分かっている部分もありますよね。でも、経済的な事情や個人的な感情など、いろいろな理由があってなかなか進んでいないのが現状です。そこを乗り越え、解決に向かうためのヒントが、ジャパンエッセンスにあるのではないかと。

渡辺さん)世の中の潮流とともに企業も変化し、生活者の方々も無理なく変化することで文化を作っていくのが我々の役割の一つかなと思っています。資源循環だけではなくて、脱炭素の分野など、あらゆる課題について、CLOMAのようなアライアンスができて、より大きな動きがつくられていくと良いですよね。その中でジャパンエッセンスを活かしていただけたらより素晴らしいですね。

小中さん)確かに、ジャパンエッセンスをCLOMAが発信していくことによって、国内外問わず、色々な方々が課題解決の糸口を見つけていけたら嬉しいですね。
フューチャーセッションズとCLOMAで、「ジャパンエッセンスセッション」をあちこちで開催しましょう!

西山)色々なところで実施していけると面白いですよね!

有福)ぜひともご一緒したいですね!あらゆる課題についてアライアンスによって領域を横断した取り組みでアクションを加速する動きが増えていくと良いですね。CLOMAはその機運を醸成してくださっていると思っています。

セッションでは、CLOMAが理想とする2050年の未来像の言語化を行い、それを受けて未来像を絵で表現されました。そのアウトプットに対する内外からの反応はいかがでしたか?

CLOMAの2050年の未来理想像を絵にした「CLOMA CITY」。現在は、実在する都市に具現化するためのアクションを始めている。

渡辺さん)CLOMA内では、言語化したものに対して「スッキリ!」、絵については「素敵!」という反応が多くありました。

小中さん)シンプル(笑)!でも本当にその通りでしたね。心の中にあるけど言語化できない未来像が具現化できてスッキリしましたし、出来上がった2050年の未来像の絵は私もワクワクしました。

年に1回、「CLOMAフォーラム」という報道関係者1000名ほどがあつまるイベントを開催しているのですが、セッションを通じて描いた未来像と、それを描いた絵を発信しました。見た方々からは「分かりやすくて良いよね」という反応をたくさんいただいて。ジャパンエッセンスとは具体的に何があるかが明文化された上で、どういう世界を実現したいか言語化され、非言語領域でもそれを表現することで、未来像に奥行きが出て分かりやすいという反応でした。

西山)2050年の未来像の絵=CLOMA CITYと名付けられていますが、とてもワクワクします!

渡辺さん)「未来デザインチーム」で未来像を描いた後、その未来像を具現化するワーキンググループが最近立ち上がりました。未来デザインチームの頃に比べ参加者も増えて、40を超える会社の方が手を挙げて参加し、未来像の実装に向けて動いております。

有福)CLOMA CITYを概念に留めるのではなく、実際に具現化していくのですね。その行動力とスピード感には驚きです!
この大きな目的の達成のためにはバイオ燃料、マテリアルリサイクルなどさまざまな技術が必要ですし、CLOMAのように技術領域を横断できる組織だからこそできる取り組みですね。

西山)500を超える企業、団体が集まるCLOMAだからこそ、何かすごいものを実現できそうですね。

小中さん)これまでの未来デザインチームのメンバーももちろん参加していますし、またフューチャーセッションズとご一緒できたら嬉しいです。

有福)ぜひ、こちらこそ一緒に取り組めたら嬉しく思います。これからもどうぞよろしくお願いします!

 

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