プロジェクト事例 PROJECTS
名古屋グランパス「GRAMPUS SOCIO PROJECT」

クラブの象徴、エンブレムを多様なメンバーとともに共創する

概要

プロジェクト期間
2023年2月~2023年12月
課題・背景
クラブの象徴であるエンブレムを多様な人々と共創する
支援内容
全4回の共創プログラム設計・後方支援、ファシリテーション
体制

ファシリテーター:上井雄太(フューチャーセッションズ)

2023年、サッカークラブ「名古屋グランパス」は結成から31年目を迎えました。これまで積み重ねた30年の歴史をふまえ、この先新たな30年を、クラブのみにとどまらない、グランパスに関わるあらゆる人々と創りたいという想いとともに「GRAMPUS SOCIO PROJECT」は発足しました。

プロジェクトの第一弾として、クラブの象徴ともいえる新エンブレムを共創することを目的として、ファン・サポーター、パートナー企業、ホームタウンの人々など、年代も立場も多様な70名が集まり全4回のミーティングを実施しました。

クラブにとって大切なエンブレムを共創する、新たな挑戦に至った経緯や、取り組む上での苦労、共創プロセスを経て生まれたエンブレムへの反応はどのようなものだったのでしょうか。プロジェクトを終えて、改めて振り返りながらお話しを伺いました。



戸村 英嗣さん(上段左):

マーケティング部部長。ソシオプロジェクトのプロジェクトマネージャーとして、本プロジェクト全体を統括。プロジェクトの立案から、全体的な方向性と実行の管理に至るまで、全体を監督する。

梅村 郁仁さん(上段右):
広報・コミュニケーション部部長。ソシオプロジェクトのメディアプランニングやブランディングを統括。オープンプロセスとなるプロジェクトの情報発信方法を広報面からサポート。

大内 悠資さん(下段左):
マーケティング部副部長兼プロモーショングループグループリーダー。新エンブレムのブランディングや情報発信の企画、デザインシステムの制作や運用ルールの整理にも知見を活かしサポートにあたる。

佐藤 剛史さん(下段中央):
ホームタウングループグループリーダー。2017年のロゴやマスコットデザインの刷新時の担当としての知見や、社会連携担当として共創セッションを活用した経験を活かし、プロジェクトに携わる。全4回ミーティングにメンバーとしても参加。

児玉 智洋さん(下段右):
マーケティング部プロモーショングループ。ソシオプロジェクト事務局として、プロジェクト運営や進行を担当。各プロジェクトメンバーの窓口となり、全4回のミーティングや発表イベントの調整を行う。


上井 雄太(Future Sessions)

ストーリー

クラブの歩んだ歴史が、前例のない新エンブレム共創への挑戦につながった

上井)プロジェクトの第一弾を終えて、改めて皆さんとお会いできて嬉しく思います!まずは、「GRAMPUS SOCIO PROJECT」が立ち上がった理由や、新エンブレムをあらゆるステークホルダーと共創する、前例の無い取り組みに挑戦するに至った背景について教えてください。

戸村さん)2022年にグランパスは30周年を迎え、これまでの歴史や活動の意義を振り返るとともに、新しい次の30年のために、グランパスとしてどういうクラブを目指すのか、クラブ内で議論をしていました。新たな歴史を刻んでいくタイミングで新たなエンブレムをつくり、その議論の内容自体を発信していくのが良いのではないかという話が出たのがきっかけです。

これまで愛されてきた旧エンブレムを惜しむ声も多く挙がっていました。そのような状況下、新しいエンブレムがさらに愛していただける存在になるためには、クラブ内にとどまらずファン・サポーター、グランパスに関係するあらゆる方々を巻き込み、エンブレムを共創することによって、そこに込められた想いやコンセプトを「自分ごと化」し、それぞれが語れるようになるプロセスの必要性を感じました。

このような経緯で、グランパスが積み上げてきた歴史をリスペクトしながら、新たな歴史を刻んでいくための共創プロジェクトがスタートしました。

上井)振り返ってみると、日本のスポーツクラブでも前例のない、大きな挑戦だったのだということを改めて感じますね。
今まで、クラブの関係者が中心となって考えてきたことを、関わる人の幅を広げて「グランパスに関わるすべての人々とともに、エンブレムは共創できるのか?」という問いを立てたわけです。この問いかけがとても素晴らしかったなと個人的に思っています。

僕が日頃関わるフューチャーセッションでは、「どのような問いで対話を始めるか」をとても大事にします。同じメンバーで対話をしていても解決できなかった問いが、未来のステークホルダーを巻き込むことで大きな変化を起こした事例もたくさんあります。新たな挑戦にあたり、どのような想いで決意をされたのでしょうか?

戸村さん)サッカークラブは、決して私たちだけのものではなくて、地域の皆さんのものでもあると常に意識しています。だからこそ、新エンブレムへの変更が、あらゆる方々にとって「自分ごと」になることが一番の目的でした。グランパスは今までも、より多くの方にクラブを身近に感じていただきたいという想いを込め、応援してくれる方のことを「ファミリー」と呼んできました。そのような歴史があったからこそ、今回の共創に結びついたのだと思っています。

佐藤さん)私が入社した15年前は、グランパスも地域に根ざした活動がまだまだできていませんでした。地域の方々とどう関わるのか、当時からたくさん議論を重ねてきました。その中で気づいたことは、地域にはサッカーに興味のない人たちもたくさんいて、その方々のことも考えたうえで活動することの必要性でした。今回の新たな取り組みが、それまで興味のなかった方を惹きつけるきっかけになればという希望もありました。

上井)参加してくれた方々を見ると、小中学生などの若い世代や、長年応援して下っているコアなサポーターの方、最近グランパスのファンになった方など、あらゆるステークホルダーがいらっしゃいました。
僕も名古屋出身ですが、プロジェクトに関わってみて、地域でのグランパスの存在の大きさ、たくさんの方々が熱心に応援をしている様子を目の当たりにして、幼い時に見ていた姿からの大きな変化を感じました。新たな挑戦に一緒に取り組むことができて、地元を誇りに思います!

プロセスに自信があったからこそ、プロジェクトの経過を可能な限りオープンにできた

上井)プロジェクトメンバーの皆さんはそれぞれに熱い想いを持ってプロジェクトに取り組まれていましたね。実際にプロジェクトを進める中で、特に力を入れたのはどのような点でしたか。

児玉さん)1つ目には、とにかく多様な方にご参加いただきたい、かつ当事者になっていただきたいと思っていました。公募で50名の方にご参加いただきましたが、年代、応援歴、所属先、志望動機も本当にさまざまな方にお集まりいただくことができたのはとても大きなポイントとなりました。

2つ目に、場づくりを工夫しました。メンバーの公募を始める前に、私たち事務局がミーティングを開催し、共創プロジェクトのノウハウが少ない中で、上井さんが「場の力が大事です」と教えてくださったんですね。そこで、全4回のミーティングをグランパスゆかりの地で行うことに決めました。会場はクラブのスタッフやクリエイティブチームの皆さんと話し合って本気で場所探しをしました。特に印象的だったのが、最終ミーティングの際に熱田神宮で御垣内(みかきうち)参拝をしたこと。特別にユニフォームを着て必勝祈願とプロジェクトの成功をお祈りしました。参加してくださった方々は、ますます自分ごととして捉えて、エンブレムに対して本気でぶつかってきてくださって、非常に良かったです。

記憶にしっかりと残るような場所で開催できたのは、上井さんの一言のアドバイスがあったおかげだと、個人的に思っています。

上井)いやいや、恐縮です。どの会場も「グランパスさんだからいいよ」と言ってくださって、通常は入れない熱田神宮の御垣内にもお参りができて。地元から愛されているグランパスならではの共創の場づくりの力を感じた出来事でした。
プロジェクトに参加した方々の「あの時、あそこで語ったよね」という記憶は、エンブレムと共に残り続けると思います。

プロジェクトを進める上で、苦労されていた部分もあったと思います。特に大変だったのはどのような点でしたか?


児玉さん)関わる方が増えれば増えるほど意見が多様になり、同じエンブレムを見ても、意見が半々に分かれる現象が途中から続出しました。そこからどう意見を集約させていくのか、できるだけ多くの方が納得して、良いと思えるものを仕上げるのが大変でした。

上井)僕も共創をする中で苦労する点です。ここまでまとめ上げたのは本当にすごいことだと思っています。意見をまとめていくためには、どのような工夫をしたのでしょうか。

児玉さん)本当に大変でした(笑)!事務局とクリエイティブチームの対話は、毎週欠かさずに行い、皆さんの意見を検討しながらデザインを少しずつ修正するようにしました。そのおかげで私たちの考えや姿勢は常にブレずに進められたと思っていますし、クリエイティブチームの皆さんも本当に根気強く取り組んでくださいました。

上井)今回のプロジェクトは、クリエイティブチームの、WONDERS Inc. 岩田さん、
bowlgraphics Inc. 徳間さん、graff Inc. 小島さんのお三方の力なくしては成立しなかったと僕も感じています。デザインの経過をオープンにするというプロセスは、最終案がまとまらなくなってしまうリスクが大きく、前代未聞の取り組みで、責任重大だったと思います。全4回のミーティングのうち、前半2回はデザイン制作のためのコンセプトワーク、後半2回はミーティングのをふまえて、デザインに落とし込むという内容でした。プレッシャーも大きい後半部分のプロセスを、皆の想いを汲み取り、デザインに昇華させ、エンブレムを完成させたクリエイティブチームの皆さんは本当にプロフェッショナルだと、僕も本当に感激しました。事務局の皆さんとの連携あってのことなので、本当にこのプロジェクトメンバーの方々をリスペクトしています。

WONDERS Inc.:https://wonders.jp/
bowlgraphics Inc.:https://www.bowlgraphics.net/
graff Inc.:http://www.graff.jp/

あとは、デザインだけでなく、このプロジェクトの過程を、レポートやYouTubeでもすぐに配信し、オープンにしていたことも特徴的でしたね。批判的な意見が集中するリスクもある中、情報をオープンにすることについて、不安はありませんでしたか?

児玉さん)ミーティングへの参加者はどうしても50名に限られてしまう状況で、さらに多くの方から意見を聞くために、情報はできる限りオープンにしたいという考えも一致していたので、プロセスの公開は自然な流れで決まりました。
一方事務局として、「批判的な意見もあるかもしれない。でも、プロセスがしっかりしているのだから、私たちが自信を持って発信できるものになる」という想いは皆一致していました。そのうえで、ある程度の批判があるかもしれないということも覚悟できていました。

梅村さん)プロジェクトで今何が行われているのかをしっかり発信し、ミーティングに参加できなかった方々にも理解を深めていただき、「自分ごと」として捉えていただくことを意識していました。そのため、ミーティングの様子を見せる動画も、ある程度の長さをとって、しっかりと内容を見せることを心がけ、見た方から意見を募る仕組みもつくりました。

上井)1時間もある動画を見てくれる人がいるんだろうか?と思ったのですが、参加できない方の声も届いていましたね。ミーティングの場にいなかったファミリーの方も共創に参加するきっかけになっていて、とても素晴らしかったと思います。

グランパスに関係するすべての人々が一体となって取り組むことで、本気度の高い対話ができた

上井)ミーティングの中では、数々の忘れられないシーンがあったと思います。プロジェクトの中で、特に印象的だった出来事について是非お聞かせください。

児玉さん)第1回目のミーティングでは、「30年後の2053年、社会にインパクトを生み出しているグランパスは、いったいどんなグランパス?」というテーマで対話しながらアイデアを出してもらったのですが、小学生が「地球環境にやさしいクラブ」というアイデアを語ってくれたり、「グランパスをラッピングしたロケットが宇宙に飛ぶ」というユニークなアイデアもあり、私たちにない視点でのアイデアが出てきて本当に多様性を感じました。

上井)確かにたくさんのアイデアが出て盛り上がっていましたよね。他に印象に残ったシーンはありますか?

大内さん)第2回のミーティングでは、エンブレムについて考える前に、グランパスファミリーとして大切にしたい価値観について対話を行いました。私もメンバーの一人として対話に参加したのですが、その中で「オープンマインド」がキーワードに挙がりました。

通常、ゴール裏は熱心なサポーターのみで構成されることが多いのですが、グランパスの場合は、どんな方でも気軽に入れますよという空気感をファミリーの皆さんが作ってくださっているなど、30年の歴史の中でオープンな考え方を大切にしてきました。

私たちがエンブレムをできるだけオープンな形で創り上げることを考えたように、オープンなマインドがファミリーの方々にも受け継がれ、対話の中で言語化され、エンブレムに反映されていったことに、歴史の重みと感動を覚えました。

佐藤さん)ファミリーの皆さんも、私たちクラブのスタッフと同様、オープンなマインドでもっともっと多くの方を巻き込みたいという想いを持っていたことがわかり、私もとても感激しましたし、言語化できたことで、プロジェクトにも良い流れができたと思いました。

上井)プロジェクトには多様な方に参加していただきましたが、対話を重ねるごとに同じ想いを持っていることも分かってきたりして。そのプロセスがあったからこそデザインにまとめていくことができたのだと感じています。

児玉さん)クラブのレジェンドOBである楢﨑正剛アシスタントGKコーチがサプライズで登場した時、参加メンバーが喜んでいた様子も印象的でした。もちろんチームの選手やOBもファミリーとしてプロジェクトに関わっています。新エンブレムについて選手とも数回の対話を重ね、その様子をミーティング中に動画として流したりもしました。皆が一体となって取り組んでいることがわかり、ミーティングへの本気度がより一層上がり、良い対話ができました。

ポジティブな反応の多かった新エンブレム。「共創といえばグランパス」をこれからも目指す

上井)2023年の12月、完成した新エンブレムを発表しました。クラブ内外での反応はどうでしたか?


梅村さん)発表の直前まで本当にドキドキしました(笑)。発表後、SNSやリリースに対するポジティブな意見が大半を占めたことは、想像を超えていて本当に驚きました。
やはり多くの方を巻き込んだ上でプロセスをオープンにし、参加メンバー以外からの意見にも耳を傾けるなどした結果だったと感じます。そしてエンブレムの発表を誰でもご覧いただけるような「オープンマインド」を体現する場所で行ったのも大きかったです。

上井)エンブレムの発表は、名古屋の中部電力MIRAI TOWER目の前の久屋大通り公園、「街のど真ん中」で行いましたね。僕の予想を遥かに超えてオープンな場所だったので、とても印象に残っています。

梅村さん)プロセス含め今回のプロジェクトをメディアの皆さんにも関心を持っていただき、発表イベントを多くのメディアで報道いただけたことで、より多くの方々に今回のプロジェクトを知っていただくことができ、とても嬉しかったです。

戸村さん)行く先々で名刺を出した時に、必ず「これ、新しいエンブレムですよね」と言ってくださいます。加えて、「いろんな方と一緒に考えたエンブレムなんですよね」と言っていただけることがとても多くて。プロセスまで知っていただけているのは本当に嬉しいです。

児玉さん)ネット上でも「プロセスが良かった」というコメントや、「想いがある皆で創ったら良いものができるよね」というコメントをいただきました。
新エンブレムをあしらったユニフォームなどのグッズに関しても、多くの方にお買い求めいただき、ポジティブな反応が多かったです。

上井)僕も発表イベントのMCとして参加しましたが、直前の控え室でドキドキが止まらなくて(笑)。クラブスタッフのみなさんは「結果はわからないけれど、プロセスには自信がある。だから大丈夫!」と全員が同じことを言っていたのを見て、なんて強い人たちの集まりなんだ!と思いました。そのやりとりに僕も勇気をもらえました。

僕が今後皆さんと一緒に取り組みたいことは2つあります。
1つ目は、「共創といえばグランパス」と言っていただけるように、共創を続けていきたいということ。
2つ目は、グランパスにファシリテーターを増やしていくこと。僕たちも共創ができる仲間をもっともっと世の中に増やしていきたいと考えています。やはり、限られた人材では、共創を持続させるには限界があるので、「グランパスソシオファシリテーター」を増やしていきたいですね。

ひとつの大きな挑戦を終えて、皆さんが感じたことや、これから挑戦したいことについても是非教えて下さい。

梅村さん)毎回ミーティングが終わった後にみなさんが「楽しかった」と言ってくださったことが印象に残りました。グランパスファミリーの皆さんとゆっくり話す機会は今までなかなか無かったので、多くの方の意見を直接聞く、大変貴重な機会でした。

佐藤さん)共創という切り口で、クラブについて考えることの重要性を改めて感じました。今後は、ホームタウン、パートナー企業、自治体の方々など関わる方をさらに広げてプロジェクトに取り組めたらいいなと思っています。

大内さん)今は子どもたちと一緒にクラブの未来について考えるプロジェクトも進めているので、是非また上井さんともご一緒させてください!

上井)いいですね、子どもたちからどんな発想が生まれるのか、とても楽しみです!

戸村さん)対話の大切さを教えていただいたプロジェクトだったと感じています。リアルな場で皆さんの想いをしっかり受け止め、次のプロセスに活かしていく経験はグランパスの大きな財産になりました。この財産を活かしていくことがグランパスの大きな使命だと感じています。今回、参加したメンバーが、それぞれ新たな対話を生み出して、新たな共創が生まれるといいなと思います。その積み重ねが、より皆さんに愛されるクラブにつながると信じて、続けていきたいです。

上井)あらゆる場所でグランパスについての対話と共創を起こしていくプロジェクト、ご一緒できる日を楽しみにしています!

プロジェクト参加メンバー PROJECT MEMBER

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